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「もう他のヤツと話すな。俺だけ見て、俺にだけ時間作ってほしい」
言った。
ついに言ってやった。
もうずっと言いたかったけどなかなか言うタイミングがなかった。
でも今日こそは言ってやった。
二人で昼休みの部室に入った瞬間、俺は満を持したように有坂に言ってやった。
授業中に悶々と考えて考えすぎて考えまくった結果、行き着いた先はそこだった。
俺だけ見て欲しい。
他の奴と一緒になんかいないでほしい。
有坂に少しでも時間があるなら、全部俺のために使って欲しい。
有坂はじっと俺の目を見下ろす。
負けじと見返してやると、不意に伸びてきた手が俺の両頬を包み込んだ。
どこか愛しむように額同士を擦り付けられてから、鼻の頭にキスされる。
それからちゅ、ちゅと可愛がるように額やこめかみにもキスされて、髪をわしゃわしゃと撫でくりまわされて、最後に目蓋にもキスしてから有坂は再び俺を見た。
「すまないがそれは無理だ」
いや断んのかよ。
完全に今俺の言うこと聞いてくれた流れかと思ったろ。
内心大はしゃぎしただろーが。
「お、俺だって有坂に時間があるなら遊びたかったんだ。なのになんで朝宮さんと遊んでるんだよっ」
「遊んでいたわけじゃない。勉強していたんだ」
「一緒にいたんだからどっちでも同じだっ。それに俺だって昨日は有坂に送ってもらいたかったのに――」
そう言って言葉を詰まらせる。
有坂がいないから仕方なく一人で帰ったけど、めちゃくちゃ怖い目にあった。
結果的に言えば水瀬だったけど、でも本当に怖かったんだ。
「…何かあったのか?」
俺の様子に有坂が首を傾ける。
どことなく心配そうな黒い瞳が俺を見つめて、ギュッと胸が詰まる。
有坂はもっと俺と一緒にいたいとか思わないんだろうか。
せっかく時間が出来たのに、どうして俺と遊んでくれないんだ。
「夜道でストーカーに追いかけられたんだよ。それですげー焦って…」
「――なに?」
不意に有坂の視線が変わったから、慌ててそれは誤解だったことを伝える。
それからついでに昨日の出来事も有坂に話した。
水瀬をストーカーだと勘違いしたこと、携帯を届けてくれたこと、ちょっと仲良くなったこと。
「…それで水瀬に家まで送らせたのか」
「おー。アイツ家近いんだって」
昨日のことを思い出したらちょっと楽しくなってきて、ふふ、と笑顔を向ける。
だけど有坂は険しい顔のまま眉を潜めた。
「今度から遅くなることがあればすぐ俺に電話をしろ」
「そんなこと言って昨日は朝宮さんと遊んでたんだろ」
「勉強をしていたと言っただろう。それに結城こそなぜそんな遅い時間まで水瀬といたんだ」
「えっ」
ギクリとする。
思わず視線を逸らしたら、有坂がジトリと目を細めた。
「ゲームは二時間までだと約束したはずだろう」
やべ、バレた。
完全に不機嫌そうな顔に変わった有坂は、今にも説教モードに入りそうだ。
慌てて言い訳を探す。
「そ、それはそうだけど…ちゃんとアラーム掛けたけど鳴らなかったんだよ」
「遊んでいて気付かなかっただけじゃないのか」
「な、鳴らなかったもんは鳴らなかったんだよっ。それに有坂だってまだいると思ったし――」
「それで俺以外の奴に送らせたのか」
一気にどこか責めるような口調に変わる。
いやおかしいだろ。
なんで気付けば俺が怒られる側になってんだ。
俺は何も悪くない。
むしろ怒りたいのはこっちの方だ。
「あ、有坂だって俺以外の奴送っただろ」
「世話になったのだから、女性を家まで送るのは当然だ」
「そんなの有坂じゃなくてもいいだろっ。大体文化祭は終わったし朝宮さんは野球部とも関係ないのに、なんで仲良くしてんだよ」
「朝宮にテスト勉強をしないかと誘われたんだ。野球部の勉強を見ることを伝えたら、一緒に見てくれると気遣ってくれた。野球部の成績が落ちると大会参加に支障が出ることは結城も知っているだろう」
「そ、それは知ってるけど…でも…」
だけど嫌だ。
めちゃくちゃ嫌だ。
有坂が他のやつと一緒にいると聞いただけで、ザワザワと嫌な気持ちがとめどなく込み上げてくる。
納得いかない気持ちのまま口ごもっていたら、有坂は小さく息を吐いた。
「…俺は朝宮の気遣いに助けられたんだ。そんな風に結城が怒る必要はどこにも無い」
どこか宥めるような口調だったが、その言葉に頭の中がカッと熱くなる。
助けられたってなんだよ。
それは俺が今までに一度も、有坂に言われたことのない言葉だ。
「…お、俺より朝宮さんの肩持つのか」
「そういう事を言っているわけじゃない。ただせっかく善意で野球部の勉強を見てくれると言った言葉を、結城には誤解してほしくないだけだ」
「――も、もういいっ。朝宮さんの話し一生すんなっ」
これ以上聞きたくない。
喚くようにそう言ったら、有坂はどこか難しい顔で俺を見つめた。
それから少し考えるように視線を伏せる。
「…結城。お前がそういうことを言うたびに、俺はお前を友達として見ていいのか分からなくなる」
シンとした部室にぽつりとした有坂の声が響いた。
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