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「やっぱりラインハルト様は凄いです。この動きはなかなか出来ないですっ」
「そーだろ。お前にも教えてやるよ。まずこうやって――」
ゲームしながら先輩らしく後輩に手解きする。
水瀬は俺の話を何でも素直に聞くから、得意げになって教えてやる。
有坂が朝宮さんと遊ぶ心配がなくなったことで、俺の気持ちはわりとスッキリしていた。
そうなれば心配事もなくなって、有坂が来るまでの時間を水瀬と楽しくゲームして過ごす。
「嬉しいなぁ。これからはラインハルト様がこうやってずっと一緒に遊んでくれるんですね。ゲー研に入ってくれて本当に有難うございました」
俺の隣でずっと嬉しそうに水瀬は表情を緩ませている。
部室に来る前に入会届を出してきて、俺は晴れてゲー研入りを果たした。
とはいっても毎日ガッツリ参加する気はさらさらねーけど。
「まあ気が向いたら構ってやるよ。お前俺と会長の他にはゲームする友達いないのか?」
ピコピコと操作しながら聞いてみる。
画面の中の俺のキャラがボスと対峙して、水瀬のキャラが素早くサポート魔法を掛ける。
このボスはちょっと強敵だが、俺達の連携ならいけるはずだ。
「はい。僕物心ついたときから今の事務所に所属しているので…ずっと趣味を制限されていたので、中々分かりあえる友達が出来なかったんですよね」
「へー」
「中学まではひたすら趣味を隠して生活していました。でも高校に入ってからは思い切って見た目を変えて、趣味に専念することにしたんです」
「ああ、なるほど」
つまりある意味逆高校デビューを果たしたわけか。
なら会長や俺と遊ぶのは余計に楽しいだろう。
初めての友達にめちゃくちゃはしゃぐ気持ちはよく分かる。
まあ俺の場合ゲーム友達どころかフツーの友達すらいなかったけどな。
でも有坂に出会って、友人詐欺師だがハルヤンにも会って、会長や水瀬とも出会って同好会にまで入った。
高校に入るまでずっとぼっちだったはずなのに、高二になってから俺の人生はマジで大フィーバーしてる気がする。
ボスにふっ飛ばされた俺のキャラを水瀬が素早く回復する。
よし、まだ戦える。
再び俺はボスに立ち向かっていく。
「だから会長がいてくれて、ラインハルト様も入ってきてくれて本当に嬉しいんです。シグルドくんには思うところがありますけど…でもラインハルト様を連れてきてくれた事には感謝しています」
「あんまり有坂と喧嘩すんなよ。仲良くなりすぎてもキレるけど」
まかり間違ってもし水瀬と有坂が親友にでもなったら、朝宮さんレベルに発狂する。
何気なくそう忠告して画面操作をしていると、ようやくボスが弱ってきた。
よし、あとちょっとで倒せる。
が、不意に水瀬のキャラが動きを止めた。
あれ、と思って隣を見れば水瀬がじっと俺を見つめている。
おいこら何してんだ。
ボス戦は遊びじゃねーんだよ。
「――おい」
「ラインハルト様はシグルドくんのことがお好きなのですか?」
「えっ」
突然振られた会話に驚く。
いきなり何言い出してんだ。
「好きに決まってんだろ。俺より有坂の事を好きな奴はいない自信がある」
「…僕にはラインハルト様にあんな顔をさせた方が良い人には思えません。それにラインハルト様だけでなく、他の方もそそのかしているのでしょう?」
「まあ有坂は影の人気者だからな。…ムカつくけど色んな奴に引っ張られるのはしょうがない」
納得は全然してねーけどな。
なんなら全員消えろって思ってるけどな。
でも有坂がめちゃくちゃ頼れるお人好しなのは、有坂のいいところなんだ。
それは俺だってちゃんと分かってる。
「ですがラインハルト様はやっと出来た僕の大切なお友達なんです。そんな方が傷つくのは、見ていられません」
「はぁ?」
なんかまだ隣で言ってるが、そんなことよりさっさとキャラ動かせ。
俺のキャラが死ぬだろーが。
ボスの攻撃をなんとか避けて、水瀬の分まで頑張りながら必殺技のコマンドを入力する。
よし、この必殺技が入れば勝てる。
「…それに」
不意に頬に知らない体温を感じた。
ハッとして隣を見ると、長い指先が俺の頬をするりと撫でる。
覚えのない温度に、ゾワリと肌が粟立った。
「――こんなゲーム画面から出てきたような綺麗な方を苦しめるなんて、僕は絶対に許せません」
水瀬の瞳が、不意に色を変える。
どことなくうっとりと熱を帯びた視線に嫌な感じがして、思わずコントローラーを離して身体を引く。
そのままその手を振り払った。
パシッと軽い音が室内に響く。
「…おい、前にも言ったよな。俺に気安く触んな」
じっと眉を顰めながら水瀬を見つめる。
水瀬は俺の表情で自分の行動にハッとしたように手を引いた。
「あ…わっ、す、すみません。つい横顔が綺麗だったもので…」
「そんなの知ってんだよ。どうでもいいからさっさとキャラ動かせ」
アタフタしてる水瀬の様子はすっかりいつものモブ眼鏡で、さっき感じた一瞬の違和感はもう見られない。
一体何だったんだと画面に視線を戻して、俺は衝撃を受けた。
めちゃくちゃ頑張った俺の労力虚しく、画面にはGAMEOVERの文字が浮かんでいた。
水瀬にゲームの心構えの話から厳しく指導してやっていたら、有坂が迎えに来た。
律儀にもピッタリきっかり二時間だ。
掛けておいた携帯のアラームと共に現れた有坂は、初めてのおつかいを心配する母親の如く深刻な顔つきで俺を見下ろす。
「何もされなかったか」
「えっ、何もって何が?」
ポカンと首を傾げると、水瀬が後ろで小さく息を吐き出した。
「せっかく出来た大切な先輩に何かしたりはしませんよ。僕は勝手にキスマークを付けるような方とは違います」
しれっとそう言っているが、お前さっき俺に勝手に触ろうとしてきただろーが。
アレのせいでボス倒せなかった恨みしばらく忘れねーからな。
「なぜそれを知っている」
不意に有坂の声が低くなり、その顔が険しくなる。
コイツらほんとに仲悪いな。
ちなみにその横でピロピロなってるゲーム画面では、さっきのリベンジをしようとまさに魔王と賢者が対峙しているところだ。
とりあえず今日はこの間と違ってゲームに熱中出来たし、フツーに楽しかった。
水瀬のせいでボスは倒せなかったけど、放課後にこんな充実した時間を過ごせるなら同好会も悪くない。
俺は自分の鞄を持ち上げると、いまだ難しい顔で水瀬と対峙している有坂の手を握った。
「おい、結城。どういうことだ。何が――」
「じゃーな、水瀬」
そう言って水瀬にニッと笑顔を向けると、有坂の手を引いて上機嫌でゲー研の部室を出た。
部室を出ると、空はまだオレンジ掛かり始めた程度だった。
二人で歩きながら、有坂の手から伝わる温度に堪らず表情を緩めてしまう。
これからは有坂との時間だ。
「…水瀬ともこんな風に手を繋いでいたわけじゃないだろうな」
「え?何言ってんだ。水瀬とはゲームしてただけだぞ」
「そうか」
俺の言葉に有坂はどこか気が抜けたように息を吐き出す。
そんなに俺のこと心配してくれてたのか。
ひょっとしたら有坂も、俺が朝宮さんに対して思っているような気持ちになったんだろうか。
水瀬に対して、めちゃくちゃ腹立ったりしてるんだろうか。
「なあ、もしかして今ムカついてる?俺が他のやつと一緒にいて心配だった?めちゃくちゃ寂しかったか?」
思わず聞いたら、どこかジトっと睨むような視線を向けられた。
物言いたげな視線にビクリとしたが、有坂は呆れたようにもう一度息を吐き出す。
「…全くお前は。わざとやっているんじゃないだろうな」
「え?何が」
「――いや」
有坂は俺の様子を見ると、言葉を濁して首を擦る。
だがすぐに観念したように口を開いた。
「その通りだ。正直結城のことを思うと気が気ではなかった」
真っ直ぐな有坂の言葉に、ぶわっと気持ちが高揚していく。
やっぱりそうだ。
有坂も俺と同じように思ってくれていたのか。
俺から繋いだ手は今や有坂のほうがしっかりと握ってくれていて、それに気付いたらドキドキと心臓が動き出していく。
「なあ、何して待ってたんだ?」
「図書室で勉強をしていた」
「じゃあもう今日の勉強はしなくても平気か?」
「何を言っている。そんなわけには――」
当たり前のように有坂が何か言いかけたが、俺と目が合うと言葉を止める。
いつもキリッとしたその眉が、どことなく困ったように下がった。
「…分かった。結城がしたいことを教えてくれ」
「――本当か?」
唐突な有坂の言葉にパアッと気持ちが浮き上がる。
有坂がそんな風に俺と遊ぶ気になってくれるなんて珍しい。
今日は本当にめちゃくちゃ良い日だ。
朝宮さんより俺を追いかけてきてくれたし、ゲームで遊んだ後送ってもくれた。
絶対ダメって言うと思ったのに俺に合わせてくれる気にもなったし、マジでどうしたんだ。
もう手を握ってるだけじゃ足りなくなって、思わず有坂の腕を取ると甘えるように頬を擦り付ける。
それから有坂の顔を見上げて、くしゃりと笑ってみせた。
「じゃあ有坂の部屋に行きたい」
そう言ったら有坂の表情がどこかギクリと強張った。
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