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「結城君、い、一緒にあれ乗らない?」
「いいよ」
「あっ、あの。私お化け屋敷苦手なんだぁ。少しだけ服掴んでてもいいかな」
「いいよ」
「ゆ、結城君…はぁっ、写真撮っていいかな。こっち向いてね」
「いいよ」
俺が少し笑顔を見せてやったことで、クラスメイトが一気に声を掛けてくる。
こっちはつまんねーのに、向こうは至極楽しそうだ。
口々に優しいとか、落ち着いてるとか心が広いだとか褒められる。
そんなことは言われなくても知ってんだよ。
自分でも何をしているんだろうと思う。
有坂には約束を破られるし、それどころか朝宮さんとどっかに消えた。
本当は今すぐ帰りたいし、もうこんなの全部嫌だって大声で喚き散らしたい。
だけど有坂はまだここにいる。
もしかしたら戻ってくるかもしれないし、律義な奴だからきっとその時に俺がいなくなってたら気にするだろう。
いつもなら俺の事たくさん心配してずっと気にしてて欲しいけど、でも今それをしたらいけない気がする。
有坂に突き放されそうになってるのにそんなことしたら、今度こそ嫌われてしまいそうだ。
こんな展開めちゃくちゃ嫌だけど、有坂の親友でいたいなら我慢しないとダメだ。
「有坂くんと朝宮さんうまくいったかな?」
「どうだろうねー。朝宮さん可愛いから断る男子いないでしょ」
聞きたくない会話が周りから聞こえてくる。
俺の方が絶対可愛いしイケメンなのに、なんで有坂は朝宮さんを取ったんだろう。
全く理解できない。
俺の悪いところなんて部屋の片付けが出来ないところしか思いつかない。
え、もしかしてそれが原因か?
有坂がいない時間が過ぎていく。
ジェットコースターもお化け屋敷も長い待ち時間も有坂がいれば絶対楽しいのに、何一つ楽しくない。
賑やかに遊園地を飾るパレードを、クラスメイトの後ろからぼんやりと眺める。
女子も男子もみんな写真を撮ったりして満足そうだ。
花火が上がり仮装行列が路上を賑やかし、紙吹雪が空を舞う。
が、それもやがて終わっていく。
人が捌けていく様子をぼんやりと眺めていると、不意に女子の一人が声をあげた。
「あ、有坂くんと朝宮さんだ」
「おかえりー。二人でどこ行ってたの?」
その声にハッとして視線を向けると、有坂と朝宮さんが並んで戻ってくる様子が見えた。
ぶわっと一気に気持ちが込み上げる。
良かった、戻ってきた。
もう今日は二度と会えないんじゃないかと思ってた。
二人がクラスメイトに囲まれて、口々にひやかされている。
朝宮さんはどことなく楽しげに女子とはしゃいでいたが、有坂は真っ直ぐに俺のところへ歩いてきた。
「結城、一緒に昼食を取れなくてすまなかった。朝宮が体調悪くなってしまって、少し付き添っていた」
淡々とそう言われた。
しかも言い訳付きだ。
そんな簡単に許される問題じゃねーんだよ。
俺との約束を破るとか、めちゃくちゃ重罪なんだよ。
有坂じゃなきゃまず間違いなく絶縁コースだ。
俺の苦しみを全然分かってない有坂に、もう二度と俺の側から離れんなとか約束破るなとか言いたい言葉が溢れてくる。
「ていうか二人ともよくここにいたの分かったねー」
「30分くらいしか経ってないよね?もっとゆっくりしてくれば良かったのに」
「あー…うん。有坂くんがみんなで来てるのに別行動はよくないから探そうって」
「えーっ、さすが有坂くんというか…こっちは結城君がすごく優しくてね――」
なんか話してる声が聞こえるが、30分だろうが俺の体感は5時間くらいなんだよ。
有坂は周りの様子を見てから、もう一度俺に視線を向けた。
「みんなと随分仲良くなれたみたいだな。良かった」
どことなく嬉しそうにそう言って有坂は目を細める。
何が良かったんだよ。
ちっともよくねえ。
有坂は何も俺の気持ちを分かってない。
俺は有坂が困るかもしれないと思ったから、仕方なく仲良くしてやってたんだ。
有坂が他の奴と話せっていうから、本当は嫌だけど仕方なくだ。
じゃなきゃもう帰ってた。
クラスメイトの集団が歩いている一番後ろで、しっかりと有坂の服を掴む。
俺を突き放そうとしてる事とか朝宮さんの事とか言いたいことも聞きたいこともいっぱいあるけど、それでも有坂には嫌われたくない。
「全然仲良くなってねーよ。みんな人の顔色伺ってばっかで、ちっとも面白くなかった」
そう言ったら、有坂は俺に眉を顰める。
なんでそんな顔するんだ。
「みんな結城と仲良くなりたくて、気を遣ってくれているんだ。最初はそうかもしれないが、そのうち仲良くなれる」
「別にいい。俺は有坂がいいんだ。有坂がいてくれればそれでいいし――」
「…結城。お前は少し友人への感覚がおかしくなっているんだ」
その言葉にビクリとする。
俺が悪いのかよ。
どう考えたって周りの態度のがおかしいだろ。
有坂の言葉に、俺はついに限界を迎えた。
今日一日有坂に嫌われたくない一心でここまで我慢してきたけど、もう無理だ。
こんなにいっぱい我慢して有坂を待ってたのに、どうして俺の気持ちを分かってくれないんだ。
「…有坂は俺に友達作らせて、それで俺から離れようとしてんのか?」
「そんなわけないだろう。俺は結城の事を考えて…」
「――そんなのいらねえって言ってんだろっ」
カッと頭の芯が熱くなる。
俺の言葉に有坂が驚いたように息を詰めたが、でも一番驚いたのは自分だった。
有坂に怒鳴ってしまった。
もうダメだ。
嫌われてしまう。
そう思ったら俺はその場から逃げるように走り出していた。
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