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それからサダ兄やアサ兄と遊んだり、バイトに行ったりしながら冬休みの時間をなんとか潰していた。
有坂は変わらずに毎日電話をくれたけど、やっぱり電話が終わった後は寂しくて堪らなくなる。
しかもたまにあの女の声がして、その度に気持ちがモヤモヤしてしまう。
『年が明けたら帰る。もう少し待っていてくれ』
「…うん」
『ああ、そうだ。帰ったら初詣に行かないか。少し遅くなってしまうが結城と一緒に行きたい』
「…うん」
明日こそはそっちに帰るという言葉を期待していたのに、有坂はやっぱりまだ帰ってくる気がないらしい。
俺ばっかり寂しがってるみたいで、気持ちが落ち込んでしまう。
『…結城、拗ねないでくれ。俺もお前に会いたい』
「本当か?」
『ああ』
だけど有坂がそう言ってくれるから、ちょっとだけ気持ちが回復する。
心臓がドキドキして、心地いい声に今日も耳を傾ける。
「――ラインハルト様っ」
水瀬から新作ゲームを買ったとメッセが来て、俺の家で一緒にやることにした。
休日の水瀬はいつものクソダサい眼鏡は取っ払っていて、完全にただのイケメンだ。
アサ兄がそれに気づいてキャーキャー言ってるのを押しのけて、自分の部屋へと通す。
「ラインハルト様の家ってすごく綺麗で大きいんですね。さすが勇者様の根城といったところでしょうか」
「そうか?これくらい普通だろ」
「ふふ、謙遜なさるなんてさすがです」
なんか言ってるが、水瀬は相変わらずだ。
二人でゲームをして時間を潰す。
夢中になってコントローラーを握っていると、ふと隣で水瀬が口を開いた。
「そういえば魔王ゼタスはどうされているんです?」
「有坂は寮が閉まってるから実家に帰ってる」
「なるほど、魔王であろうと人の子。寮が閉まってしまえば為すすべナシというわけですか」
一体水瀬は有坂をなんだと思ってるんだ。
だが有坂の話題になると、途端に心臓がキュッと縮こまる。
「ということは冬休み中は僕がラインハルト様を独り占めできるってことですね」
「できねーよ。サダ兄と遊びたいし、それに俺は考えないといけないんだ」
「何をですか?」
キョトンとした顔で水瀬に聞き返される。
俺は再びゲーム画面へと顔を向けた。
「有坂と付き合うかどうか」
「――えっ、ぜ、絶対にダメですよ。あんな女癖の悪い方と付き合うなんて考え直した方がいいですっ」
「…確かに有坂は実家でも新しい女と楽しくやってるみたいだけど」
「また新しい女ですか!?ラインハルト様に手を出しておきながら、そんなの考えられませんよ」
「だよな?俺を好きだって言ったら普通俺だけ見てるのが当たり前だよな」
「もちろんですっ」
やっぱりそうだ。
俺は間違ってない。
有坂はもう俺以外の奴を二度と見ちゃいけないし話してもいけないんだ。
水瀬はやっぱりそこのところ分かってる。
今日こそは電話で言ってやろうと思っていると、水瀬は隣でどこか安心したように胸を撫でおろした。
一体なんだ。
「…まあでも、ラインハルト様にまだ悩む余地があってよかったです」
「は?なにが」
「普通好きだと思ったら、悩む余地なんてないでしょう?ラインハルト様はまだ引き返せるってことですね」
「――え?」
その言葉に驚く。
水瀬は深刻な顔をして俺に向き直ったが、とりあえず今ボス戦中なんだが。
早くコントローラーを握れ。
「ラインハルト様。もし少しでも迷いがあるのなら、今すぐにやめたほうがいいです」
「なんでお前にそんなこと――」
「僕にはラインハルト様がただ振り回されているように見えます。ゼタスに弄ばれているようにしかみえない」
「そんなことない。有坂は俺の事をちゃんと…」
「僕から見るとあくまでそう見えるって話です。仮に違うとしても、ラインハルト様が無理をなさってることには変わりない」
そりゃ無理をしていないかといえば、確かに有坂に出会ってからの俺は今までにないほど感情が揺さぶられている。
つまらないと思っていただけの世界は、有坂に出会って明らかな色を持った。
それはもちろんいいことばかりじゃないし、有坂は俺の思い通りにはいつも動いてくれない。
心がバッキリ折れて絶望することもあれば、次の瞬間には感じたこともないほどの嬉しさに包まれていたりする。
「僕は反対ですっ。ラインハルト様にはもっと良い方がいます。そう、例えば僕とか――」
なんか水瀬が言いかけた時、コンコンとノックする音がして部屋の扉が開く。
何かと思えばアサ兄がジュースとお菓子とサイン色紙とカメラを持って部屋に入り込んできた。
なぜか残念そうな水瀬がアサ兄にファンサービスしている横で、俺は水瀬に言われた言葉の意味を考えていた。
「え?俺は賛成よ。つかそこまでいって付き合わなかったらありちゃん可哀想すぎでしょ」
翌日はバイトじゃなかったが、ハルヤンに誘われて飯を食いに行った。
当然のようになんか知らん女子もいたが、そんなことは気にせず有坂相談をする。
「まあでも悩んでるくらいなら付き合わない方がいいっていう水瀬の言葉も分からなくはないけどね。どのみち側でイチャイチャエロいことしてるならどっちでもいいんじゃないの」
「俺もそう思う。親友の方が何も気にしないで済むと思うんだけど。でも有坂が恋人がいいっていうんだ」
「なるほどなるほどー、マッスーチャラ男の才能あるよ。ようこそこちらの世界へ」
行かねーよとハルヤンを睨んでいると、ハルヤンの横の女子が俺たちの会話に入り込んでくる。
「ちょっとぉ、春屋くんばっかり結城君とお話してずるいー」
「え、これ俺のせいなの?マッスーが空気読めないだけだよね」
「結城君はイケメンだからいいんですー」
「うわー、でたでた。女子のイケメン贔屓」
ハルヤンがなんか嫉妬してるが、俺も自分はイケメンだから許されると思ってる。
気にせず話していると、いつのまにか女子も一緒になって有坂相談を聞き始める。
「有坂さんの気持ちを思うと付き合ってあげて欲しいけど、王子に彼女が出来ちゃうのは嫌だよねー」
「分かる分かるー。王子はみんなのものだもんね」
「てか有坂さんがどれだけ可愛いのか興味あるんだけどー」
きゃいきゃいと騒ぎ立てられたが、みんな予想外にちゃんと聞いてくれて良い奴だった。
俺を騒ぎ立てて持ち上げる奴なんかどうでもいいと思ってたが、ハルヤンを通して見てみれば意外に話せるところがある。
「まあでもどっちにしても愛されてるなんて、贅沢な悩みだよね」
人はそう言う。
でも俺にとってこれは深刻な問題なんだ。
ずっと一人だった。
望んでいた友人がようやく出来たと思えば、勘違いから始まり、友人は俺を好きになってしまった。
その友人はとても真面目でお人好しで、だけど誠実すぎる態度に気付けば俺も大好きになっていた。
好きで、大好きで、何を考えるより一番にその顔が思い浮かぶほどに。
恋人同士になることでそんな大好きな人の未来を壊してしまうことにならないか、俺はそれだけが怖くて堪らない。
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