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ここのところ、俺は気分が良い。
ちょっと前まではなんか悩んだりしたけど、そんなのはもう過去のことだ。
理由は明白。
有坂が何をしてるか洗いざらい全部吐いてくれたからだ。
「――えっ、弓道?」
「そうだ。言ってなかったか」
「いや好きなのは知ってたけど…」
朝宮さんの言う有坂の本業がなんなのかは、聞いたらすぐに答えてくれた。
隠そうとかそういうわけでもなく、それこそ単純に俺が聞いてなかっただけくらいの感覚であっさりと。
「幼いころからずっと続けてきたものだ。本来なら高校の弓道部に所属するのが筋というものだが、少し事情があってな。一応有段者でもあるし、今は一般の道場で世話になっている」
「有段者?あ、有坂ってそんなすごい奴なのか」
「そんな大それた者ではない。ただ幼いころから続けている趣味を、今も変わらずに続けているだけだ」
有坂の趣味って、お人好しで人に色々世話焼くことじゃなかったのか。
俺がゲームを好きなように、有坂にもちゃんと趣味があったのか。
いやもちろん今まで有坂にはたくさん質問してきたし、その中に弓道の話があったのは覚えてる。
だけど特に深く掘り下げて聞かなかったから、そこまでちゃんとやってるなんて思わなかった。
考えてみれば有坂の部屋に行った時、野球よりも弓道の本の方が圧倒的に多かったし、有坂の実家には弓道場まであった。
夏休みの時に見せて貰った腕前も、素人とは思えない精密機械のようなスナイパーぶりを発揮していた。ゲームは下手なのに。
「じゃ、じゃあ弓道がメインで他は全部サブだったってことか」
「サブと一括りしてしまうにはどれも情熱を注いではいるが、どれがメインなのかと言われれば弓道と答えるな」
「…し、知らなかった」
俺の知らない有坂が、また一つ増えた。
それは嬉しいことのはずなのに、新しい一面を知るのはなんだか心が落ち着かない。
「意図して伝えていないつもりはなかったのだが、不安にさせてしまったな」
「う、うん。毎日野球してるんだと思ってたからびっくりした」
「そうか。言葉が足りずすまなかった」
そう言って有坂は謝りながら、俺の髪を優しく撫でてくれる。
俺はやっぱりウザくもないし、有坂に嫌われてもなかった。
「他に何か不安な事があるか?」
「も、もう少し有坂の今日の予定とか…ちゃんといつも教えてくれないと嫌だ」
「分かった」
「あと忙しくても一日に一回は話せないと嫌だ」
「分かった」
「ほ、本当は最低三回くらいは話せないと嫌だ」
「分かった」
「あと…」
言葉の途中で、耳にキスされた。
突然の熱い感触に心臓が飛び跳ねて、慌てて視線を有坂へ向ける。
「な、何して――」
「…あ、話の途中なのにすまない。お前が求めてくれている姿が可愛くて、つい手を出してしまった」
「と、突然すぎだろ」
今してくれって時にはしないくせに、どこでスイッチが入ったんだ。
不意打ちのキスに心の準備が出来てなくて、ひたすら心臓がバクバクと速くなる。
食事中だったからそれ以上有坂もしてこなかったが、頭が真っ白になって言いたいことも忘れてしまった。
ここ最近有坂ロスだったから、少しの触れ合いでめちゃくちゃ恥ずかしくなってくる。
そんなわけで落ち込みまくってた気分は見事に回復して、意気揚々と修学旅行の取り決めに参加する。
「あれ、なんか機嫌良さそうだね。結城君」
「まーな。あ、自由行動俺ここ行きたい」
朝宮さんの言葉も今はムカつかない。
昨日までは勝手にしろと黙ってたが、積極的に意見を提案すると俺の言葉通りにサクサクとルートが決まっていく。
「そういえば有坂くんにちゃんと話聞けた?」
「おー。弓道だろ。俺有坂がやってるの見た事あるぞ」
「えっ、そうなの?やっぱり上手だった?」
「基準は知らないけどかなり凄いんじゃねーかな。的にバシバシ当たってたし」
「へー、凄いんだね。見てみたいなぁ」
目を丸くして食らいついてきてる辺り、さすがに朝宮さんも有坂が弓道している姿は見たことがないらしい。
ならやっぱり俺の勝ちだ。
とりあえず心の中で勝手にWINをつけて朝宮さんの件はスッキリしたが、結局事情が分かったところで有坂が俺を構い倒してくれる日々はまだ来てない。
むしろ部活があろうがなかろうが弓道はあるってことだし、有坂が忙しいのは変わらない。
なんなら野球部が終わった後も弓道場に顔を出してるとか言ってたから、そんな中たまに俺と遊んでくれること自体が奇跡に思えてきた。
とはいえ修学旅行前ってこともあって、ここ最近は俺も忙しくて放課後も集まりやら雑用に駆り出されている。
ちなみに自由行動の班は結局どうにもならなかったが、俺の情熱が通じたのか部屋割りは有坂と一緒になることが出来た。
もう観光なんか行かないで一日中部屋で過ごせばいいんじゃないか。
有坂と一緒の時間さえ過ごせるなら、一度は行きたくないと思ってた修学旅行だって事情が変わってくる。
少なくとも夕食食ったり、風呂入ったり、寝るのは一緒ってことだ。
しかも部屋が一緒って事は、念願の枕投げだってきっと出来る。
そんなわけで、めちゃくちゃ楽しみでワクワクする修学旅行がやってくる。
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