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陽が落ちていく。
時計台の陰が伸び、街並みに明かりが灯り始める。
今日が終わったら、明日にはもう地元に帰らないといけない。
当初は班のクジ決めのせいでもう行きたくないとまで思ってたのに、来てみれば本当にあっという間だった。
最後の場所を回り切って、お土産を買って集合場所に戻る。
ワイワイとみんなで話しながら戻ってくると、先に着いていたらしい有坂の姿が目に入った。
今日は俺の中では今までにないくらい頑張ったから、有坂の姿を見たらグズグズに心が弛んでいく。
有坂はいないけど交流も頑張ったし、なるべく周りに目を向けてたくさんの良いところを探した。
それでもすぐには気持ちを完璧に切り替えられなくてちょっと寂しくなったりもしたけど、でも今日は頑張った。
もうたくさん褒めてくれてもいいんじゃないのか。
「お疲れ様、今日はどうだった?」
いつもだったら有坂がいなくてつまらなかったって即答するけど、でも今日は頑張ったおかげでたくさん話すことがある。
ホテルに戻って夕飯を食べながら、有坂に今日一日の楽しかった話をする。
有坂もどこか満足そうに話を聞いてくれて、終わったらちゃんと自分の一日も話してくれた。
風呂を出たら今日の班員達に誘われて、女子も含めてゲームをすることになる。
有坂じゃなく俺自身が誘われたのにはかなり驚いたけど、今日のメンバーならまだ話せるようになったから、少し顔を出してみることにした。
もちろん有坂も一緒だ。
「おい、ゲームとはトランプ等のテーブルゲームではないのか。ゲーム機の持ち込みは禁止されているはずだが」
「ま、まあまあ有坂。最終日だしちょっと多めに見てくれよ」
「そういうわけには――」
なんか有坂が他の奴と揉めているが、今はそれより班員が持ってきたゲームに俺は夢中だ。
ここにきて、ついにゲー研の実力を見せる時が来た。
「わ、結城君上手ー!」
「まーな。一応ゲー研の会長だしな」
「なんか王子がゲーム好きとか意外だよね。ちょっと親しみわいちゃう」
賑やかに俺を讃える声が室内に溢れる。
得意分野を披露出来るのはやっぱり楽しい。
「…ふむ。まあ最終日くらいは目を瞑るか」
いつの間にか後ろでも、どうやら有坂が折れて決着がついたらしい。
そうなったら有坂も含めてみんなでワイワイと盛り上がる。
有坂はゲー研のくせにやっぱり下手でなんなら女子にも負けてたけど、それを含めても楽しかった。
頃合いを見て部屋を出ると、二人で話しながら廊下を歩く。
「修学旅行で随分皆と仲良くなれたんだな」
「ん、まーな」
「また寂しい思いをしているのではと思ったが、少し安心した」
俺としては別に有坂だけでもいいけど、有坂が安心するって言うなら少しくらい他の奴と交流を持ってみてもいいのかもしれない。
つっても今までぼっちだったわけだし、じゃあ今すぐ友達増やせるかって言ったら難しいけど。
「まだ就寝時間まであるよな。有坂、テラスに行こう」
そう言って俺は有坂の手を掴んで、昨日のテラスまで引っ張っていく。
今日は修学旅行最後の夜なんだ。
二人っきりで少しでも良い思い出を作りたい。
今日はのぼせてもいないし、ベンチには座らず夜景がよく見えるフェンス際まで歩いていく。
時間的にもさっきの俺達みたいに部屋で騒いでる奴が多いのか、テラスにはちらほら人がいる程度だ。
「明日で終わっちゃうとかちょっと寂しいな」
「ああ、そうだな」
過ごしてみればあっという間の三泊四日だった。
特に問題もなく平和だったし、ずっと昼も夜もぼっちだった中学時代の修学旅行に比べれば、それはもう楽しさは段違いだった。
それも全部、有坂のおかげだ。
有坂に出会って、有坂と過ごして、恋人になって。
色々あったけどちゃんと話し合って、お互いの気持ちを確認し合って信頼関係も築くことが出来た。
そしたら少しずつだけど周りも見えてきて、なんかちょっと友達も出来るようになってきた。
全部有坂のおかげだ。
有坂に出会えたから、今俺はこんなに幸せな気持ちでいられる。
有坂を信用しようと思ったから、いつも感じてるモヤモヤした悩みゴトも今日は違う気分で過ごすことが出来た。
そういえば昨日の夜有坂にお礼を言われたけど、俺は言ってなかったかもしれない。
ちょっと照れ臭いけど改めてお礼を伝えたくなって、隣にいる有坂を見上げる。
「なあ、有坂――」
見上げた先で、有坂がどことなく難しい顔をしていた。
「…有坂?」
「え?ああ…」
有坂が気付いたように俺を見下ろす。
俺と視線が合うと、そっと髪を撫でてくれる。
優しい夜風と共に心地の良い感触を肌に感じる。
目を合わせたら当たり前のように触れてくれる事が、堪らなく嬉しい。
自然と表情が緩んで笑顔を作ったら、優しげに目の前の瞳が細められる。
それから有坂は一つ息を吐きだすと、何か決めたように柵に手を掛けて前を見据えた。
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