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ファンレター side深雪
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原 深雪、大学1年。時々インディーズバンドのライブに行くことが趣味。
俺の目当ては一昨年から追っかけてる1番大好きなバンド、「in a cat」のライブだ。
初めてそのバンド名を聞いた時、どこよりもダサい名前だと思った。初めて曲を聴いた時、どこよりもかっこいいと思った。
1ヶ月前、好きだった高校時代のクラスメイトに振られた。その次の日にあったライブで泣いた。いろんな感情がぐちゃぐちゃになった。その時のことをファンレターにして送った。
今になっては恥ずかしい。読まないでほしい。
そう思っていたのだが。
「今日は俺たちのライブに来てくれてありがとう。実はこの前ファンレターを送ってくれた子がいたんだ」
ライブの終盤、今日最後であろうMCでボーカルの相崎さんは語った。
「失恋したけど俺たちのライブ見て、泣いて、吹っ切れたらしい。俺たちはまだまだだけど、そんなふうに思ってくれる人がいた。嬉しかった。俺たち、間違ってなかったって事だよな」
俺じゃん…嘘だろ…。
ライブは盛り上がり、暑くて汗だくなのに一気に寒くなっていく錯覚に陥る。
「俺たちもやっぱもうバンド辞めようかとか思うときがある。でもこういうこと言ってもらえると辞められない。辞めたらただのバカ野郎だろ!」
割れるほどの音量でギターが掻き鳴らされ曲が始まる。
ファンレターを読まれた恥ずかしさと、自分のことをMCで話してもらえた嬉しさ。織り混ざって曲に乗り切れなかった。
終わって、ステージからはける直前。相崎さんはマイクに口を近づける。
「今日ここに来てくれた皆さん、ファンレターを送ってくれた深雪ちゃん、ありがとう。in a catでした」
深雪ちゃん?俺、女だと思われてる?
たしかにみゆきなんて名前女だと思われたって仕方ない。でも腑に落ちるわけでもない。
呆然としている間にメンバーはステージからいなくなっていた。
ライブが終わってちらほら帰っていく人。物販に向かう人。
まだ売れてないバンドだからメンバーが物販に来る。今日も例外ではないはずだ。
なんとなくメンバーに会いに行ったことはなかったが、今日は会いに行こうと思った。
短い物販列に並ぶと、目の前にメンバーがいる。
新しいタオルを買って、フレンドリーにお礼を言ってくれる相崎さんに思い切って話しかけた。
「あの!」
「ん?」
「俺、原深雪です。ファンレターを送った…」
「えっ!?マジ!?女の子だと思ってたわ!うわー、悪いなぁ」
相崎さんは笑いながら他のメンバーに「あの深雪ちゃん、男だったんだけど」と伝えた。
「笑わないでくださいよ…」
「いや、面白くて…。だって俺今も深雪ちゃんが喋るまで女の子だと思った。間違われね?」
「バカにしてません?」
「してないしてない!深雪ちゃんからかいがいあるなぁ」
相崎さんは俺の手をとって何かを握らせた。短い物販列が俺のせいで進まないということで流石に先頭から抜けた。
こういう風に相崎さんから何かを握らされている女の人を見たことはあるが…なんなんだろう。男の人に渡しているのは見たことがない。
帰りの電車で見てみると、小さく折られた紙にはラインのIDが書かれていた。
…なるほどね。タイプの女の人に渡してラインの追加を待つってことか。ライブで女を狙うなんてバンドマンらしいな。
まあ俺は男だし、なんか知らないけどツボってたし、面白いってことでこれを渡してくれたんだろう。こんな機会ないし追加しておこう。
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