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『初めての挨拶と交渉は慎重になっ』そう言った上司の顔を思い浮かべながら、恐る恐る部屋番号と呼び出しのインターフォンを押す。
軽やかにピンポンっと音がなる。
「はい。」
インターフォン越しに声がする。
「アリス出版社の香坂です。」
「今開けます。」
横の自動ドアが、スーっと開いた。
ドアの内側に入り、上階を示す矢印を押せば、直ぐにエレベーターが開いた。
エレベーターに乗り込み、目的の階を押せば、フワッとした浮遊感と共にエレベーターが動き出す。
チン…小さな音がして、目的の階に到着したと知らせる音がなり、同時にドアが左右に開く。
1207、1207…。
目当ての部屋番号の前に立ち、もう一度ドアフォンを鳴らす。
内側の玄関扉が、ガチャリと開き、中からすらりとした脚を惜しげもなく晒した、グレーのタイトスーツ姿の女性が出て来た。
「内海先生は、書斎で執筆してらっしゃるわ。
うちの原稿は貰えたけど、あなたの所はどうかしら…。」
うふっと妖艶な笑みを浮かべながら、横を通り過ぎる。
廊下にカツカツとヒールの音を響かせながら。
その女性…おそらく他社の編集部の人だろう…、手に封筒を持ち意気揚々として見える。
しまった。
やられたかも…と思いながら、玄関の中へ身体を滑り込ませ、『 お邪魔します。 』と目の前に居ない家主に向かい声を掛けるかのように挨拶しながら、奥の書斎を目指して進む。
なんども通った家なら問題はないが、ここを訪れるのは初めて編集長に連れてこられて以来2度目。
書斎をノックすれば、中から『どうぞ』と声がした。
ガチャっと開けて、先ずは編集長に言われていた通り、しっかりと挨拶をする。
「勝手にお邪魔してすみません。
アリス出版社の香坂です。
本日は、当社のお願いしている原稿をいただきにあがりました。」
一気に喋って、腰を折るようにガバリと頭を下げる。
椅子に座っていた先生が微かに動く気配がする。
頭を上げるべきかどうか迷いつつ、そろりと目線を上げる。
目の前に封筒が見え、ハッとして顔を上げる。
「先生、これは…。」
「君の社に渡す原稿だ。」
「ありがとうございます。」
そう言って受け取ろうとした時、スッと原稿が入っているであろう封筒が、引っ込む。
「えっ?」
手渡してもらえるものとばかり思っていたが、先生がニヤリと笑った。
「わたしのことは、聞いているだろう?
さあ、ゲームの時間だ。」
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