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優しさに溢れるやくざの貴方と①
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俺たちの出会いのきっかけはコンビニの駐車場で群がってるヤンキー達が絡んできたことからだった。
その日、俺はまだ幼稚園児の弟と一緒に夜ご飯に食べる弁当を家の近くのコンビニに買いに行っていた。普通なら母親が家に居て学校から帰って来たらテーブルに美味しそうな夜ご飯が並べられてるのが一般的だ。だけど、俺たちの家はその一般的な家庭とは少し違っているみたいで、毎日学校が終わると先に家に帰っている弟のために急いで帰宅して、用意なんてされたことがない夕飯のために近くのコンビニへと二人で赴くのが俺たちの普通だった。
貧乏な家の子じゃない、っていうことだけが俺たちの救いで、毎月口座に振り込まれる十万で一ヶ月の支払いをやりくりしている。つまり、俺と弟は二人暮し。父親は昔、違法ドラッグに手を出してしまって更にはドラッグをきめたまま車の運転をして年配のおじいさんを轢いてしまって、現在は刑務所の中だ。
母親はというと昼間はデリへルで、夜はキャバクラで働いてる。そういう仕事をしているからか、お金には困ることはなかった。けどなんで俺が弟と二人暮しをしようと思ったのかといえば、思い出すのも嫌になるほどだ。家にキャバクラに来た客と母親が性行為をしていたのを目撃してしまったからだ。
二年前のことだった。
それは中学に入りたての俺にとってはかなりの衝撃と憎悪が入り交じって今でも忘れることのないトラウマになってしまった。大人はみんなあんな汚いことをするんだと思うと、今でも吐き気からくる嗚咽が止まらない。
あれは駄目だ。あれだけは弟の琉(るい)には見せられない。汚い汚い汚い、汚い。俺は目撃してしまった行為と、母親の裸に対してドス黒い何かが沸き上がってくるのを感じた。大きく膨れ上がった胸と、細い腰から生えるように連なる大きなお尻。あれが世間的にナイスバディと謳われるものなのか、俺にとっては頗るどうでもいい。
ただ、女の身体というものが、母親の身体を見てしまったことから、俺はその日、女性という人間そのものが嫌悪する大嫌いな存在になった。
恋愛だって未だ一度たりともしたことなんてないのに、俺はもう女の身体を見て欲情を抱くこともないんだと思うと少しだけ清々した。気持ち悪いのに、大嫌いなのに、女の身体を見て自分の下半身のものが勃ってしまうという誤作動が起こらないんだから。
だから、消去法として俺は恋愛をするなら男しかいないということになった。けど、恋愛は未経験な上にトラウマとなる出来事を抱えてしまっているからか、未だに俺は恋愛そのものが良く分かっていない。
そもそも消去法で男と恋愛するしかないと思ってはいても、実際に男同士で恋愛なんて出来るのか想像もつかなかった。中学三年になったばかりの俺には上級レベルの同性恋愛なんてまだ早いのか?そう、一人で自問自答してはみるも、もしかしたら恋愛そのものがまだまだ早いのかもしれない。焦って恋愛をしなくても、高校、大学、社会人としてのどれかで、いつかきっと自分に合った恋愛が出来るといいなとようやく腑に落ちた。
それに俺はあの日から弟と二人で暮らすと決めて、母親の住むマンションの二階上の同じマンションに別れて住むことになって、弟の面倒も見ると決めたんだから、無理して直ぐに恋愛なんてしなくていいんだ。
今日は何の弁当を食べようかなと鼻歌交じりでコンビニに向かって歩いている弟の手を繋ぎながら俺はそう考えながら今日もいつものように恋愛なんて二の次三の次となっていく。
「雄嵩(ゆたか)お兄ちゃん!ボク、今日はこのオムライスがいい!あとあとっ、こっちのハンバーグと唐揚げと〜」
「こら、そんないっぺんに食べれないだろ?」
おっきなおめ目を真っ直ぐ見上げて「えー」と駄々を捏ねる琉に俺はクスリと笑う。柔らかい毛質の茶色の髪は琉が「やだやだ」と文句を言う度に交互に揺れる。
「我が儘言ってもダメ。オムライスだけにしときな」
「えぇっ!」
「だってその後にアイスも食べるんだろ?アイス食べないってんなら唐揚げ一つくらいならいいよ」
「それはやだぁ……」
しょぼんと眉が垂れ唇を拗ねたように尖らせる琉に俺は優しく頭にポンと手を乗せた。
「だったら他のはまた明日な?ハンバーグは明日、唐揚げは明後日。分かった?」
「うん……分かった!あっ!お兄ちゃんっ、アイスはいつものね!ボクお外で待ってる〜」
「あっ、こらっ!一人で……」
ったく。聞き分けが良いのか悪いのか。まだ幼稚園の弟を相手にしていると、こういうことがほぼ二十四時間ある。あれがいいこれがいいと我が儘を言ったり、一人で勝手にどっかに行ったり、どっかに行ったと思えば直ぐに迷子になるわで……全くもう。そろそろちゃんと叱ってやらねーといけないのかもな。幼稚園児のお仕置きには何が一番効くんだ?俺が子供だった時って父親からは蹴り飛ばされたり頭を殴られたりで、母親からは三日間食事抜きとかだったけど……ってあれ?なんか酷くね?
ふつふつと思い出してきた過去のお仕置きに俺は絶対に両親とは同じ様なことはしないって決めた。また胸くそ悪いことを思い出してしまったな。
俺は自分のと琉の分の弁当とアイスをカゴに入れてさっさとお会計を済ますと、先に外に出て行ってしまった琉を探すべくキョロキョロと辺りを見渡した。
居ねー……。
ったく、どこ行ったんだよ。
その時は少しばかりの焦りと苛立ちとで直ぐには気づかなかったが、コンビニの駐車場の地面には弟が白い石で描いたであろう絵が仰々しい程までに存在を表していた。
あいつ…こんなとこの地面に何ラクガキしてんだよ。
今日こそは本気で叱ってやろうと決めた時だった。コンビニの出入口の近くにあるゴミ箱や証明写真機や自販機の影で見えなかったが、端っこのフェンスがある所にヤンキー達がたむろって居て、そしてその真ん中には俺が探していた弟の琉が肩をブルブルと震えさせながら硬直していた。
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