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想定外の発情期 < Side神田
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おかしい……。
まだ、2週間程、先だったはずだ。
なぜ、こんなにも身体が重く、熱いんだ…。
産休に入った先生の代わりに、3年のクラスで現代文の授業を行ってきた。
代わりの人材が見つかるまでの、ピンチヒッターだ。
授業自体は、滞りなく終わった。
明日の準備をしようと、作業場として与えられている図書準備室で腰を下ろし、先程まで授業で使用していた教材に手を伸ばした時。
じわじわと、よく知る熱が身体に広がり始めた。
――発情期
Ωは、繁殖、種の保存のための性。
この世界のトップクラスたるαを惑わせる、疎まれる存在だ。
3ヶ月に一度の発情期(ヒート)は、抑制剤で抑えることも可能だが、万全とは言えない。
Ωの僕、神田 泰礼(こうだ やすあき)が、教師という職に就けたのは、発情期が軽かったせいもあるだろう。
僕は発情期中でも、抑制剤さえ摂取していれば、βと変わらぬ暮らしが出来ていた。
発情期以外でも、微量に漏れるフェロモンで、番のいないαの生徒を惑わせないように僕は、常に少量の抑制剤を摂取している。
引き出しの中を探り、抑制剤の入った瓶を見つける。
「はっ………はぁ…」
口から漏れるのは、熱を纏う吐息。
取り出した瓶の蓋を外したいのに、思いの外、指先に力が伝達しない。
まだ始まるはずがないと高を括っていた。
授業中に始まらなくて良かったと思うべきなのか。
今までは、問題なかったのに。
ピンチヒッターとして3年の授業をして来たが、あの中に僕の発情を促すようなαの生徒でも居たのだろうか。
だとしても、常に少量の抑制剤を摂取しているのに、急に始まり身体がこれほどまでに反応を始めるなど。
逆に、常に摂取することにより、抑制剤の効果が薄れてきているのだろうか……。
抑制剤の瓶と格闘しているうちに、ガラッと重い音を立て、図書準備室の扉が開かれた。
重い瞼を押し上げ、向けた瞳の先に居たのは、同僚の教師、九良 玄弥(くら げんや)だった。
大柄で、がたいの良い身体に武骨な手。
短く刈り込まれたスッキリとしたヘアースタイルに体育会系を思わせるが、担当教科は、日本史だ。
粗っぽい性格が顔に出ており、瞳を細めれば、周りは萎縮する。
粗暴な性格の反面、世話焼きな一面もあり、人望は厚い。
「いい匂いだな……発情期か?」
もともと切れ長の瞳がさらに細くなり、鋭い視線が蔑むように僕を見る。
ガチャリと施錠の音が響いた。
覗き窓にも、小さなカーテンが引かれ、外からの視線を遮った。
ドカドカと、遠慮なく歩み寄った九良は、僕の震える手の中にある抑制剤の瓶を簡単に取り上げた。
「これ、飲むのか?」
抑制剤の入った瓶を宙に翳し、用法用量などが書かれたラベルをしげしげと見やる。
僕は、声を張ることすら叶わず、小さく頭を縦に動かす。
「……飲んだところで、直ぐには効かねぇんだろ?」
すっと流れた九良の視線に、誘発されるように、身体が火照る。
「抱いてやるよ」
身体の底から這い上がる熱が、全身を犯していく。
抗う心が、九良を柔く睨め上げる。
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