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狡い答え
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抑制剤は、本能を鈍く弱らせる。
だから、近衛に……[運命の番]に、気づけなかったのか?
近衛は、ベッドの上に座り込む僕の肩を抱き、身体を寄せた。
僕の頸にかかる髪を寄せ、ふわりと指先で撫で上げた。
「噛んで……いい?」
近衛の言葉に、僕は慌て、頸を掌で覆った。
「待って……っ」
手の甲に落ちてくる近衛の唇の感触に、ぶわりと巻き起こる高揚感。
こんなに落ち着いているのに。
こんなに穏やかなのに。
触れた場所から、熱くなる……。
僕はどうしようもなく、近衛に惹かれている……。
その感情から逃げるように、きゅっと瞳を閉じる。
たとえ近衛が、僕の[運命の番]でも、許されないコト。
こんな関係になっては、いけなかった。
くっと奥歯を噛み、近衛を求めて止まない荒れ狂う感情を、無理矢理に抑え込む。
ゆるりと腰を上げ、保健室の薬品棚の中から避妊薬を探した。
手にした瓶から錠剤を取り出し、唾液で飲み込む。
「近衛はまだ、未成年だろ。最低でも、卒業するまでは、待ってくれ」
狡い、回答だ……。
わかっているんだ。
近衛とは、運命だろうと何であろうと、結ばれるコトは…、ない。
僕は、近衛家には認めてもらえない。
近衛家は、αの家系だ。
βと診断された我が子さえ、里子に出されると聞いたこともある。
Ωの僕がその家系に入り込むなど言語道断だろう。
ここで番なり、引き離されてしまったとき…たぶん、僕は生きていけない。
今ならまだ、ギリギリのラインで、諦めることも、無かったことにすることも、きっと可能な……はず。
薬品棚の前で、立ち尽くす僕を、近衛はそっと後ろから抱き締めた。
卒業するまで待って欲しいなど、悪足掻きの先伸ばしにすぎない。
今すぐにでも、付き合えないと突き放してしまえばいいのに、掴んだこの手を開けない。
一瞬でも、一回でも、知ってしまった幸福感を…重なってしまった[運命の番]との時間を、簡単には手放せない。
ほんの少し…卒業するまで、そのくらい、一緒にいても許されるだろう?
狡く甘い考えが、頭を占めていた。
「わかった。でも、苦しくなったら、俺を頼って」
抱き締めていた腕を緩め、心配げに、不安げに、僕を覗き込む近衛の瞳。
それは、他のαやβではなく、身体を許すのは俺だけにしろと暗に示す。
「約束する」
言葉とともに、キスをひとつ、近衛へ捧げた。
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