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自己満足のために、気休めに
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揺れたベッドに、ころりと小さな錠剤が床へと転がった。
捨て忘れていた避妊薬が、床に落ちた。
おれは、幸理の子供が欲しかった。
いつも飲まされそうになる避妊薬は、唾液だけを飲み込み、口の中に隠していた。
ヤっている最中だったり、ベッドを整えるために離れた幸理の隙をついて、ベッドとマットの間に押し込み隠していた。
いつもは、きちんと捨てている。
あの日、幸理が弟に怒鳴っていた日のセックスは、凄かった。
本当に失神するまで攻められた。
シーツを敷き変えるために身体を動かされ、ふと意識を戻したんだ。
子供が出来たら、このままここに居ても、いい気がしていたから。
幸理の傍に居ても、許されるんじゃないかと感じていたから。
おれは、避妊薬を飲んだふりをして誤魔化していた。
でも今は、…違う。
子供なんて出来たら、幸理の邪魔になる。
今でさえ、おれ独りでさえ、幸理の人生を邪魔しているとしか思えないのに……。
おれは、身体を起こし、転がった少し形を崩している避妊薬をティッシュに包み、ゴミ箱へと放った。
ベッドサイドのテーブルに無造作に置かれている避妊薬のシートを手に、ダイニングの椅子に座った。
パチリ、パチリ……。
ひとつずつ、PTP包装を破り、錠剤をテーブルへと転がす。
1シート分、6錠ほどを取り出した。
今まで飲んでいなかった分を、取り戻すように。
今さら飲んでも、なんの効力も発揮されないだろう。
今さら飲んだって遅いってことは、わかってる。
そもそも、子供なんて、きっと、出来ていない。
中に出すことも無いし、コンドームも着けている。
何重にも、避妊されてるんだ。
妊娠の確率なんて、ほぼ0%だ。
でも。
これ以上、幸理に迷惑をかけたくないし、邪魔立てにはなりたくない。
ただ、自分の気持ちを鎮めたい…。
自己満足のために、気休めに、おれは、錠剤を摂取する。
何も考えずに、それを1錠ずつ飲み下していく。
錠剤自体は小さく、水などなくとも飲み込めた。
だけど。
それを飲み込む度に、胸の奥が、ちくりと傷んだ。
1錠飲むごとに、幸理との距離が開いていく気がした。
6錠すべてを腹の中へ収め、ダイニングテーブルに突っ伏した。
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