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その場で吠えるしかなかった < Side瀬居
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「間違っただけだよ」
ベッドの上に座ったまま、なんでもないコトのように言葉を紡ぐ懐里に、オレは、眉根を寄せた。
「頭痛くて…、頭痛薬だと思ったんだけど、なんか効かないなって、いっぱい飲んじゃったんだ……」
失敗を誤魔化すような顔をする懐里に、オレは、疑念を抱く。
いつも行為の最中に、飲まされる薬を頭痛薬だなんて思うはずもない。
間違うなんて、あり得ないだろ…?
「嘘だろ……? 玄弥に会って、昔のコト思い出して、前みたいに……」
死にたくなったんじゃないのか?
……聞こうと思った。
だけど、その言葉を口にするコトすら、嫌だった。
「違うっ」
叫ぶように声を放った懐里は、言葉を繋ぐ。
「自殺しようとなんてしてないっ。おれ、死のうなんて思ってないよ。寂しいとも思ってない……」
その瞳は、真摯にオレを見詰めていた。
「それに、あの人のご飯、……美味しかったし。もう一回、食べたいと思ったよ」
玄弥の作った食事の味を思い出すかのように、懐里は視線を浮かせ、口角を上げた。
「本当か?」
言葉に懐里は、満面の笑みをオレへと向け、ゆるりと首を縦に振る。
「…そっか」
懐里の態度に、肩の力が抜ける。
「また、頼んでみようか?」
オレの言葉に、懐里は、嬉しそうに笑んで見せた。
そんな話をしたのが、数日前だ。
オレは、家を飛び出し、エントランスを抜け、歩道に立つ。
右を見ても、左を見ても、懐里らしき人影はない。
当たり前だ。
懐里が家を出たのは、きっと、何時間も前だ。
「あぁ、くっそっ」
飛び出したはいいが、どこを探せばいいのかと、途方に暮れる。
身寄りもなく、友達付き合いも稀薄だった懐里が、どこへ行くのかなど見当もつかない。
オレは、その場で吠えるコトしか出来なかった。
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