アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
こんな別れは酷過ぎる
-
仕事から帰ったオレが見つけたのは、懐里の書き置きだった。
『今まで、ありがとう』
たった1行。
たった1言。
こんな紙切れ1枚で、捨てられてたまるかっ。
ちゃんと顔を見て、話して、オレを納得させて欲しい。
オレは、その紙切れを握り潰し、そのまま家を飛び出した。
何を思って、懐里がこの家を出たのか、わからない。
オレに近衛家へ帰れと暗に示しているのかもしれない。
『彼女が姿を消したのは、私のためでもあったのかも…』
ふと、見合い相手の言葉が頭を過った。
オレのコトを思って姿を眩ましたのだとしても、そんなのは認めない。
懐里の居ない未来に、オレは幸せなど見出だせない。
懐里の進退は、懐里に任せようと思った。
一緒に近衛家へ行くにしても、離れるにしても。
運命の相手が、懐里を連れ去ってしまうなら、諦めもつくかもしれない。
だけど。
こんな居なくなり方は、ないだろう……っ?
地面を睨めつけ、どうすればいいのかと思案する。
「幸理?」
睨みつけていたままの顔を、声の主へと向けた。
「……っ」
苛立つオレの顔を見て、玄弥は、一緒に居る青年を庇うように自分の陰に隠した。
「なんだよ、おっかねぇ顔して…。なんかあったのか…?」
オレの表情が変わらないコトに、玄弥は察する。
怪訝な顔で問う玄弥に、オレは、握り締めた紙切れを差し出した。
「懐里が……、懐里が…」
出ていった…、その言葉が紡げない。
玄弥は、オレの手からぐちゃぐちゃに握り潰された紙を受け取り、優しく開く。
一緒に来ていた青年も、そっとそれを覗いていた。
「まだ、病み上がりなのに……」
泣きそうに歪むオレの顔。
倒れた日から、1週間も経ってない。
なんで、今、なんだよ……。
なんでっ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
129 / 224