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保たない緊張
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スマートフォンに、齧りつくように顔を寄せた男が、悔しげな声を放つ。
「申し訳ないが、写真はない」
「どっから、いつ居なくなった? …あとは、見た目、どんなん?」
艶の声に俺は、半ば呆れながら言葉を紡ぐ。
「場所はここ。艶ちゃんなら、もう調べてるでしょ? 俺の居場所」
「まぁねぇ~。そのマンションか。あー、あるある、防犯カメラぁ~」
楽しそうに紡がれる艶の声は、今の緊迫する雰囲気を、難なく壊す。
「居なくなったのは、8時過ぎから18時までの間…、絞り込めない」
後悔が押し寄せる男の声色に、艶は相変わらずのトーンで言葉を返した。
「10時間程度でしょ。楽勝~っ。見た目は?」
「身長は160センチくらいで、細めの男、髪が黒色で肩ぐらいまで……」
懐里の姿を思い浮かべながら、少しずつ情報を伝えていく男に、艶が声を挟んだ。
「あー、これかなぁ。ずいぶん、でっかいバック持ってるねー。ちょっと、画像送るから、確認してくれる?」
言葉と共に、俺のスマートフォンが、メッセージの着信を知らせた。
俺は、送られてきたメッセージを開く。
添付されていた画像には、大きなトートバックを肩から下げた長髪で中性的な人が映っていた。
「懐里っ!」
エントランスから出ていこうとしている人物を引き留めるように伸ばした男の指先は、画面に辿り着く前に動きを止めた。
「……っ、間違いないです」
「おっけぇ~。ちょっと、追っ掛けるから、少し待ってて。わかったら、また、メッセするから。じゃね!」
言うが早いか、切るが早いか。
俺のスマートフォンからは、プープーという無機質な音が響いた。
「……ありがとう」
深く頭を下げる男に、九良は、ふっと鼻で笑った。
「まだ見つかってねぇけどな」
「艶ちゃんなら、大丈夫だよ。なんとかなりそうで、良かったです」
九良に声を掛け、男に笑みを向けた。
男は俺の顔を見て、そういえばこいつは誰なんだ? と言いたげに、九良に瞳を向けた。
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