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九良の優しさ
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ぽふんっと、九良の手が俺の頭に乗っかった。
「こいつ、犬養 想汰。オレの番……」
九良の言葉に呼応するように、目の前の男が自己紹介をする。
「オレは、瀬居 幸理。玄弥の古い友人ってところだ」
差し出される幸理の手を、握った。
「想汰は、懐里と同じΩだ」
九良の言葉に、俺は、ぽんっと掌を拳で打つ。
その音に、幸理も九良も俺に視線を向けた。
「番、だったんですね。早く見つかるといいですね」
にこにこと言葉を紡ぐ俺に、幸理の眉根が寄った。
「いや、オレ、βだから……」
悔しげに紡がれる幸理の声。
「ぅ、わ……ごめんなさいっ」
がばっと頭を下げる俺に、幸理は、抗えない運命に、諦めの表情を浮かべた。
「あ、いや。気にしないでくれ」
沈み込む雰囲気に、九良が口を開いた。
「つっても、まだ、オレら番になってねぇんだけど。こいつ、まだ高校生だから、卒業待ってんの」
頭に乗った九良の手が、乱雑に俺の髪を掻き乱す。
俺の髪を無造作に、わしゃわしゃと掻き混ぜる手を止めようとしながら、口を開いた。
「俺は別に、高校ちゅ……」
中退でもいいと放とうとした俺に、九良の空いていた手が両頬に触れる。
九良の指先が、俺の頬に、むにゅりと沈む。
唇が、にゅっと突き出し、言葉を奪われた。
「ダメだ。ちゃんと卒業しろ。一生に1回しかない高校生活、満喫しとけ」
瞳でも叱られた俺は、早く手を放して欲しくて、小さく頭を縦に振る。
ぱっと俺の頬から手を放した九良は、幸理へと視線を向けた。
「こいつが[運命の番]であるコトは、間違いねぇから、オレも慌ててねぇんだ」
頭に乗っていた九良の手が、ゆっくりと下がり、俺の頸に触れる。
「番にして、オレのもんにして、家に閉じ込めて、誰にも見せたくねぇとも思ってるよ。でも、オレのエゴで、こいつの世界、狭めたくねぇんだよ……」
俺は、九良の傍にさえ居られれば、それが幸せだと思ってる。
囲われたって、自由がなくたって、九良さえいてくれれば、何も要らない。
自分だけのものにするのは、何時でも出来る。
でも、俺の青春は、今しかなくて。
あの時もっと、楽しんでおけば良かった。
あの時もっと、弾けておけば良かった。
大人はそんな後悔と一緒に生きているのかもしれない。
俺に高校生活を楽しめというのは、そんな後悔を生まないようにという九良の優しさなのかもしれない。
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