アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
できるだけ穏やかに優しく < Side瀬居
-
懐里は犬養が連れてくると諭され、玄弥に引き摺られるように帰宅した。
「少し落ち着け」
ダイニングの椅子へと座らされたオレに、玄弥は、正面にどかりと腰を下ろし、呆れた声を放つ。
「あんな怒鳴られたら誰だって逃げたくなんだろ……」
疲れたように紡がれる言葉に、オレは、テーブルを睨めつける。
「普段から、怒鳴ってるわけじゃ……」
か細く言い訳を呟くオレに、玄弥が遮るように声を放つ。
「だとしても、だ。何かきっかけがあったんだろ。あいつが出ていこうって思う、さ。それを聞かないと、今、戻ってきてもまた出てくんじゃねぇの?」
ガチャンっと大きな音が立ち、玄関の扉が開かれたコトを察する。
瞳を向けたその先、強張った顔の懐里が、リビングへと入ってきた。
懐里の後ろからついてきた犬養は、不安げにオレや玄弥の顔色を窺っていた。
懐里に逃げられないためにか、犬養の肩には、持ち出されたトートバックが背負われていた。
懐里と入れ替わるように、玄弥が腰を上げる。
「オレら、……帰ろうか?」
深刻な重い空気が、場を埋め尽くす。
このまま懐里と2人になれば、オレは、きっと怒鳴りつけてしまう。
「いや。居てもらってもいいか?」
悩みながらも居てもらうコトを選択したオレに、玄弥は、少し離れたソファーに向けて足を進めた。
「想汰」
呼ばれた犬養も、トートバックを持ったまま玄弥の隣に、ちょこんと座る。
懐里を促し、玄弥が座っていた場所に座らせた。
「なんで、勝手に居なくなった? オレの帰り待っててくれるって、『おかえり』って言ってくれるって、約束しただろ?」
できるだけ穏やかに。
できるだけ優しく。
腹の底で荒ぶる感情を抑え込み、言葉を紡いだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
138 / 224