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傍にさえ居られれば
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涙を抑え込んだ瞳で、懐里は再び、オレを見やる。
「幸理は結婚するんだから、おれ…邪魔、でしょ」
震えなが紡がれる声と、困ったように微笑む顔。
「結婚って……?」
どこから出てきたのか、その単語に引っ掛かりを覚えた。
「見合い、行ってたんだろ?」
見透かすような、傷ついたような、複雑な懐里の瞳がオレを見ていた。
聞こえてたんだ…と、懐里は、申し訳なさそうに言葉を足した。
「あれは仕事だ。結婚なんてするつもりない」
オレにとっては、仕事の一貫だった。
その証拠に、見合いのコトなど、すっかり頭から抜けていた。
静かに吐いたオレの言葉にも、懐里はどこか納得しない。
「だけど……。おれ、ずっとここに居るわけにはいかないだろ? ずっと幸理に迷惑掛け続けるわけにはいかない」
「迷惑だなんて、誰が思うんだよっ」
堪らず、怒鳴っていた。
苛立つままに放つオレの声に、手が白くなるほどに、懐里はシャツを握り締める。
「おれとの間に子供が居るなんて知れたら、この先、見合いも出来ないだろうし、お前の将来……台無しになるっ」
姿を消そうとしたのは、オレの為だとでも言うのか?
βのオレに、見合い相手のαの彼女のような親の期待も優雅な未来も関係ない。
オレは、懐里さえ居れば何も要らないのに。
懐里の傍にさえ居られれば……っ。
オレの将来って、なんだよ。
子供がいるなんて知れたら、将来が台無しになるなんて……。
「こ、ども……?」
邪魔だ、迷惑だ、将来のため。
そんな言葉に紛れ、聞き逃しそうになった単語を、拾い上げた。
言葉に、申し訳なさそうな懐里の瞳が、オレを見据えた。
「ごめん。薬、飲んだふりしてた……」
消え入りそうな声で謝罪の言葉を紡いだ懐里は、意を決したように、懇願を瞳に乗せた。
「絶対にバレないようにするからっ。幸理の戸籍には傷、つけないからっ」
小さく頭を横に振るった懐里は、泣き出しそうなほど顔を歪めオレを見続ける。
「迷惑かけないようにするから……。ここも出ていくし、この子と2人で……」
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