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無いもの強請り
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「俺がβのままだったら、もっと真実味も、説得力もあったんですけど……」
困ったように眉尻を下げた笑みを向ける犬養に、おれは、否定の思いで首を振るった。
犬養が、罪悪感を覚える必要は、何処にもない。
「でも、思うんです。生まれながらのΩなら俺も、もっと綺麗に…なんか儚くて、守ってあげたいって思ってもらえるようになれたのかなぁ……」
しょぼんと肩を落として言葉を紡ぐ犬養。
「儚さとかそんなもの、必要ないんじゃないかな? だって、九良さんは、想汰くんの[運命の番]でしょ?」
信じてあげて欲しい。
きっと、九良は、どんな犬養でも愛してくれる。
それが、運命の力だから。
「Ωって発覚して、直ぐに[運命の番]に出会えた想汰くんは、幸せだと思うよ」
最初に出会ったαが運命の相手で。
目の前にあるのは、幸せに向けての階段。
にっこりと笑い、おれは、掌の半分を覆う袖を少し捲った。
無数に走る手首の躊躇い傷に、犬養は一瞬、息を詰めた。
「おれは、Ωっていう性に振り回されてきたから。αに弄ばれて、死にたいのに死ねなくて……」
直ぐに、傷痕を隠した。
あの頃の感情が蘇りそうで、怖かった。
「βだったら良かったのにって、何回も思ったよ……」
袖の内に隠した傷痕を擦りながら呟いた。
「みんな、無いもの強請り…ですね」
犬養は、困ったもんですよね~と、空笑った。
「でも、今は、Ωで良かったって思うよ」
おれは、柔らかく下腹部に手を添えた。
お腹の中に息づく新たな命。
大好きな人の子供が、ここに居る。
それは、おれがΩだから成し得たことで。
「触ってもいいですか?」
わくわくが抑えきれないというように、犬養の鼻息は荒い。
「まだ全然わかんないよ?」
期待が溢れるキラキラとした瞳が、おれに向く。
「……それでもいいなら」
犬養の好奇心に負けるように、おれは、了承の意を示す。
「ありがとうっ」
そうっとそうっと触れてくる犬養の手。
「Ωとかβとか関係なくて、やっぱり、幸理さんと懐里さんは、運命ですよね。ここに、その証拠があるんだから……」
犬養は、にこにことおれの腹を撫で続けた。
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