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オバケと思われてる? < Side艶
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「艶ちゃーん、来たよぉ」
間延びした声を上げ、事務所に入ってきたのは、想汰だ。
「うわ、本当に居た……」
訝しげな顔のままに事務所へと足を踏み入れ、驚いた声を上げたのは、想汰の番だろう。
「本当に居たって何? 私、オバケだと思われてんの?」
きゅっと眉根に皺を寄せ、想汰に問う。
「連絡しないで事務所に行っても居ないんじゃないかって」
想汰は、斜め掛けしていたショルダーバッグを徐に外し、応接のソファーへと放った。
ちらりと壁に掛けられた時計に瞳を向ければ、夜の8時過ぎを指し示す。
確かに、探偵事務所の営業時間は、疾うに過ぎている。
「でも、艶ちゃん、ここから出ないでしょ?」
想汰は、事務所の床を指差し、首を傾げた。
「だね。ここが私の家だからね」
「……家っていうには、住みにくくねぇ?」
周りを見回しながら、怪訝そうに言葉を紡ぐ番の男。
私の事務所は、煉瓦造りの外壁の小さなビルの5階、ワンフロアだ。
昔は単身者用の賃貸アパートだったが、今は商用利用されている物件。
1階にコンビニ、2階に歯科、3階は空いているが、4階にはよくわからない事務所名が掲げられている、所謂、雑居ビル。
背の高い書類棚が2つに、モニターが並ぶ大きな机と事務椅子と、応接用のソファーとテーブルがあるだけの事務所。
確かに、生活感は薄い。
応接用のソファーが、私の寝床。
衣類は隣の2畳ほどの物置部屋にある衣装ケースに入っているが、洗濯に関してはすべてクリーニングに頼っているので、洗濯機は無い。
トイレやバスルームは、入口のすぐ側の扉を開ければユニットバスがある。
申し訳程度のキッチンも、引き戸の奥にあり、冷蔵庫も小さなものが流しの下に備え付けられている程度だ。
「まぁね。てか、あんたが想汰の番? 九良 玄弥?」
丸フレームの眼鏡越しに値踏みするような視線を向ければ、ふっと呆れるような息を吐かれた。
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