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現れてくれるなと願う
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「そんなに怖がらなくても、大丈夫じゃないですか? 寝不足になる方が、悪影響だと思いますよ」
苦笑する那須田に、確かに、怖がりすぎだと自分でも思う。
那須田の手が伸び、おれの頭を再び自分の肩へと引き寄せた。
「寝てていいですよ。呼ばれたら、起こしますから」
引き寄せたままに、ぽんぽんっと優しく叩かれる頭に、ふと那須田の動きが止まる。
「こんなことしたら、瀬居さんに怒られそうですね」
ふふっと小さく笑った那須田の手は、すっと退けられ腿の上に置かれている手帳へと戻っていった。
肩におれの頭を乗せたまま、那須田は、スケジュール帳に何かを書き込んでいた。
おれは、肩に頭を預けたままに、ぼんやりと待合室を眺める。
那須田が動く度に、ふわふわと香る匂いが、おれの鼻を擽った。
「いい匂い………」
瞳を閉じ、漂う匂いを吸い込んだ。
「……っ。たぶん、香水だと思いますよ」
一瞬、息を飲んだ那須田は、何事もなかったかのように、言葉を繋ぎ、スケジュール帳を捲る。
Ωのおれは、αほどフェロモンに敏感ではない。
でも、胸の底が、ざわつくような匂いだった。
一般的な香水の匂いとは違うような気がしたが、今は、色々なものがある。
香水の匂いだと言われれば、そう納得するしかなかった。
αを誘惑するΩのフェロモン。
Ωほどではないが、αもフェロモンを発している。
触れたり、交わったりしない限り、Ωには簡単に[運命の番]を見つけられないらしい。
おれみたいな鈍いタイプは、余計に、わからないかもしれない。
「おれの[運命の番]って、いるのかな?」
ぼんやりと紡いだおれの言葉に、那須田は、ぴくりと肩を揺らした。
「[運命の番]に…、出会いたいんですか?」
那須田の言葉に、悲哀が滲んだ。
幸理のコトを、心配しているのだろう。
預けたままの頭を、小さく横に振るった。
「……現れて欲しくない」
おれは、心のままに言葉を零す。
「おれ、αの人、やっぱり怖いし…、幸理のコト、裏切りたくない……」
腹を覆うシャツを、きゅっと握り締めた。
那須田は、おれの腿に手を置き、ぽんぽんっと慰めるように叩いた。
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