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なにも成しえない自分の曲げられない運命
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幸理と仕事をするようになってすぐの頃、縁に匂いを嗅がれた。
仕事が長引き、かかってきた電話に動揺が隠しきれていなかった幸理を先に返したとき、家に帰った私に、縁は顔を顰めた。
ほんの少し、それもΩではなく、一緒に住んでいるβの幸理に触れただけなのに、縁は、頻りに私のスーツに鼻を寄せた。
「なんでΩの臭いがするんだ?」
責めるような物言いだった。
あの近衛家で働いていて、Ωと接することなどあるはずがない、と。
縁は、私の浮気を疑った。
「仕事をしていただけです。疚しいことは何もないです」
きっぱりと言い切る私に、少し思案するように床を見つめた縁は、ふっと息を逃がした。
「そうだな。Ωと寝たなら、こんなに薄い訳がない。どこかで、接触したのか……」
電車には乗ったが、誰かに触れた覚えはなかった。
私が触れたのは…、幸理だけだ。
幸理が心配していた相手が、Ωなのだろうと勘づいた。
それから帰る度に、匂いを嗅がれた。
「同じ匂いがするな」
幸理に触れた日は、確実に顔を顰められた。
「……やはり。今、一緒に仕事をしている方の…、たぶん恋人が、Ωなのかもしれません」
縁は、訝しげに眉根を寄せる。
「恋人なのに、番じゃないのか?」
これほどまでに垂れ流され私に纏りつくフェロモンに、恋人なのに番になっていない間柄に、縁は不快な顔をする。
「その方も、私と同じβですから……」
女性や男性のΩという子供を産める性がいる中で、俺は、何もなし得ない。
愛おしい存在の為に子を成したいのに、叶わない。
女性のように魅力的な体躯でもなく、Ωのようにフェロモンで誘惑するコトも出来ない。
曲げられない運命に、私は視線を落とす。
不毛な恋。
不釣り合いな愛。
運命に組み込まれていないβの想い。
どんなに愛していたって、どんなに好意を持っていたって、βは、運命の歯車には組み込まれない。
「お前を責めている訳じゃない」
縁の手が、俯く私の頬に触れる。
感触に、窺うように上げた視線。
傷ついたような色を浮かべる縁の瞳に、私は笑みを貼りつける。
「わかってます」
この頃から、私は疑っていた。
人を介した僅かな接触の香りを嗅ぎ分ける縁に、懐里が[運命の番]なのではないのか、と。
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