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安息の地は、存在しない
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私は、用意周到な縁に呆気に取られていた。
精液が閉じ込められた小瓶を茫然と見詰めている私に、縁は小さな溜め息を吐き、腰を上げた。
専用の保温ケースに小瓶を納め、再び、私へと差し出した。
「これが欲しかったんだろ。でも、毎日は無理だ。週1が妥当なところだな」
ベッドに座ったままの私の腿の上へと保温ケースを預けた縁は、ベッドサイドの引き出しを開けた。
そこから厚みのある茶封筒を取り出し、無造作にベッドの上へと放った。
滑った拍子に、封筒の口から見えたのは、札束だ。
軽く2、300万は入っているだろう。
「これを持って居なくなっても構わない。黒羽は適当に誤魔化しておく」
周到な準備に、淀みない言葉。
今までもきっと、そうしてきたのだろう。
女性やΩを孕ませてしまったのではなく、逃がす口実にしていたのだろうと推測された。
私の…、親が拵えた借金は、桁が違う。
それに私は、ここを出ていったところで変わらない。
私には、黒羽の家しか、戻る場所がない。
あの、忌まわしい生活に戻るだけ。
「私は出ていきませんよ」
穏やかに紡ぐ言葉に、縁は鼻を鳴らす。
「足りないか?」
くっと片方の口角を上げる縁に、私も感情のない笑みを浮かべる。
ここで暫く1人を相手にするか、黒羽家に命じられるままに、期間毎に違う人間の相手をするか…その程度の差だ。
私が安らげる場所など、存在しなかった。
「ここから出ていったとしても、私の生活は変わりませんから。貴方に使役するか、他の誰かに使役するかの違いだけです」
私は、右の足首を曝し、黒羽の所有物であるコトを証した。
アンクレットを確認した縁は、忌々しそうに表情を歪めた。
ベッドの上に放った札束を拾い上げた縁は、私の膝にある保温ケースの上に、無造作に置いた。
「精液が欲しいときだけ来ればいい。ここに縛るつもりはない。それも好きにしていい」
自由を与えられたところで、金を施されたところで、私には、どうすればいいのかなど、わからなかった。
「夕飯は何がいいですか?」
私の問いに、縁は訝しげな瞳を見せた。
「届けたら、戻ります。ついでに買い物をして来ようと思うので」
茶封筒から数枚を抜き取りながら、声を放った。
――くしゃっ
封筒から取り出した札は、縁に握り潰された。
きょとんとした瞳を向ける私に、縁は、札を取り上げる。
摘まんでいた札の代わりに、私の指先には、デビットカードが差し込まれた。
「食費や生活費はこれを使え」
くしゃくしゃに握り潰した札を軽く伸ばした縁は、封筒の中へと差し戻した。
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