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落ち着かない空間 < Side瀬居
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賢理の卒業が、間近に迫る。
大学へと進学を決めていたが、賢理は学業の傍らで、近衛家の仕事を学んでいた。
数百人が、ゆったりと過ごせる一流ホテルの大きなホール。
肉や魚のメイン料理に、色とりどりの野菜で彩られた前菜、ソフトドリンクからテキーラまで何でも揃っているドリンクコーナー。
優雅にスーツを着こなす男たちと、煌びやかなドレスを纏う女たち。
ここは間違いなく、華やかな社交の場。
近衛家主宰の懇親会…、立食パーティー会場に、初めて足を踏み入れていた。
今までは、殆どの出席者がαだった。
社員の中にΩは存在せず、βに関しては、会長や社長の秘書、会場のホール係として数名が参加する程度。
Ωに至っては、番であっても、親族であっても、参加は許されていなかった。
重役に混じりそれなりの地位を得ていても、βであり一社員に過ぎないオレは、この懇親会への参加は認められていなかった。
この場所に、オレのようなβや、神田や懐里のようなΩの出席が叶ったのは、父の意向だ。
近衛家は、αへの執着を止めたのだと宣言する為に、オレたちは呼ばれたのだ。
余りにも現実離れしたこの場所に、気後れしてしまう。
隣に立っている懐里も、落ち着かない様子で瞳を彷徨わせ、オレのスーツの裾を遠慮がちに掴んでいた。
「幸兄、緊張してる?」
飲み物を取りに行っていた賢理が番である神田と共に戻り、笑いを堪えながら言葉を紡ぐ。
「緊張なんてしてない。現実離れし過ぎてて、居心地が悪いだけだ」
すっと視線を背けるオレに、賢理は、くくっと詰まるような笑いを零す。
「シャンパンでも飲んで落ち着きなよ?」
すっと差し出されたグラスには、透明に近い淡い黄色の液体が気泡を燻らせる。
「お前は、アルコールはダメだぞ」
賢理の手元にあるグラスに視線を向け、きつく言葉を放った。
「わかってるって。神田にも同じコト言われたし。ちゃんとノンアルコールだよっ」
不貞腐れるように放たれた賢理の言葉に被るように、神田の声が耳に届く。
「アップルとオレンジ、どっちがいいですか?」
神田は両手に持った2種類のジュースを懐里に見せ、選択を求めた。
「あ、ありがとうございます」
オレのジャケット裾を掴む手はそのままに、懐里は、アップルジュースを手に取った。
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