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間違い 6
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六月、梅雨入りをしてしとしとと湿り気を帯びた。
空気に気が滅入りそうだ。
ミケはというと
「あーめあーめふーれふーれもっと降れ〜」
この調子で何故かいつもより元気だ。
その理由を聞くとどうやらミケは雨が好きらしい
理由までは教えてくれなかったけれど本人が楽しそうだからまあ、いいか
「よしっ!じゃあどこから行こっか〜」
鼻歌交じりに外を眺めていたミケがぱっとこちらを向いて笑う
梅雨の湿気も吹き飛ばしてしまうくらい眩しい
俺達は温泉街に来ていた。
地元から離れて車で移動すること三時間
温泉街に隣接するように建つ旅館へ到着した。
、
ミケの誕生日やり直しの名目で近所のデパートでデートしていた時
ミケが旅行会社のパンフレットを持ってきた。
「ニシナさん!ニシナさん!」
「あんまり大きな声で呼ばない。」
「にっしーなさん!」
「はあ、どうしたの」
余程気になるものなのかミケは全く言うことを聞かず、嬉々としてそのパンフレットを俺の前にかざした。
こうしてみると本当に成人しているようには見えない。
そもそも年齢自体本当のことかわからないけれど
近い、とパンフレットを退けつつミケを見る。
「ここ!温泉!行こ!!!」
また突拍子もないことを…
さすがにその場では今度な、と諦めてもらうと拗ねたミケはあからさまに歩くスピードを落とす。
むう、と唇を突き出すように拗ねるミケ
キス待ちか?
そんな姿すら可愛いと思うのだから本当に重症だ。
「来月なら、有給取れるよ」
「!」
言った途端花が咲いたようにぱあと色がつく
俺も単純すぎる。
スキップしそうなミケにそれはやめてくれ、と制した。
その日の夜、パソコンを貸してくれとミケが言うので自宅のノートパソコンをミケに渡すと
「ねえねえ、6〜8と11~13ならどっちがいい?」
「は?」
「どっち!」
「6〜8、?」
「おっけー!」
そういうとまた視線は画面に戻り何かをいじっているようだ。
「俺ちょっと電話してくるー!」
「え、あぁ。」
家の電話の子機を持って廊下の奥へ消えていった。
忙しないな、なんだ?
「ただいまー」
「おかえり。って、どこに電話してたんだ?」
「ふっふっふー!ニシナさん、ちゃんと6月の6〜8日は有給取ってね!」
「ん?」
そういえば六月なら有給取れるって言ったんだけっけか
にしても急だな。
「温泉に!行くから!!!」
、
そもそもこの旅行、俺は一切費用を出していない。
ミケに聞くといつもお世話になってるから俺が出すの!の一点張りで値段なども聞かされておらず
その代わり車をだしてくれ、と言われた。
俺が車と免許持ってなかったらどうやって行くつもりだったのか
いつも思うけれどミケはどこから収入を得ているのだろう
俺が仕事に行っている間の行動は全く知らないし
帰宅時には必ず家に居るから忘れていたけれど
温泉街に行く前に旅館の浴衣を選んでいたミケに
興味本位で聞いてみると
「バイトみたいな感じ〜」
…バイトか。
真っ先に思い浮かんだのがいかがわしい店だったことは言えない。
恋人としてこの考えはまずいだろ
「こっちとこっちどっちがいい?」
「ん、」
山吹色と裏葉色の浴衣を持ったミケ
なんとも珍しい色を選ぶ
俺は緑っぽい裏葉色の方を指さす
「ニシナさんはこれね〜」
紫色を帯びる暗い青、花紺青の浴衣
ミケが楽しそうなので少し笑ってそれを受け取る。
直ぐに持ってきた浴衣に着替え、傘をさして外へ出る。
足に当たる雫が冷たい
「まんじゅ!ね、これ食べよ」
「あんまり食べすぎるなよ」
「美味し!」
食べるの早すぎじゃないか
買って直ぐに温泉まんじゅうを口に放り入れるミケ
喉につまらせないか少し心配だ。
「ふんふんふーん」
よくわからない鼻歌を歌いながら俺より数歩前で傘をくるくる回して歩くミケ
外出用の浴衣とはいえそんなに裾を濡らして大丈夫か
なんて考えてると
翠の双眸が突然こちらを向く
どきり、だかギュ、だかわからないけれど心臓が鳴く
六月の雨なんて鬱陶しいだけのはずなのにミケがいるだけで俺の世界は輝く
「ニシナさんっ」
ほら、まただ
俺はミケのことを何にも知らない
なんでこんなに好きなのかもわからない
ただ、好きなんだ
ポツポツと雨音がうるさい
なんだこれ、なんか、前にも………
「どーしたの?」
大きい猫目に捉えられてハッとする。
心配そうに少し下げられた眉に頭を撫でてなんでもないと伝える。
「あっちの温泉入りいくか?」
「!…うんっ!」
いまはせっかく温泉に来たのだから入らなきゃ損だ。
この時間を楽しもう
俺の中でミケの存在が大きくなる度に
俺たちの約束が色濃く頭に浮かぶ。
『じゃあ、一年間よろしくね。おにいさん。』
何故一年間なのだろうか。
一年間でなくてはいけない理由
ミケは俺に何を隠してるのだろう
いや、隠してるとは違うか俺も聞かないから。
ミケのことを知りたいという気持ちと
知ってしまうことが怖いという気持ち
これから来る別れに備えている。
存外俺も臆病者だ。
はあ、まだ出会って二ヶ月しか経ってないのにな
惚れたら負けとは、本当によく言ったものだ。
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