アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
間違い 20
-
「カズキさんは昔の付き合ってた恋人名前、思い出せる?」
昔、付き合っていた人の名前…
そんなのわかるに決まってる。
当たり前だ、と口を開いてはみるものの
俺の口から人の名前が発せられることはなかった。
一緒に過ごした思い出はあるのに
俺は顔も、名前も思い出せないことに初めて気づいた。
初めて、おかしいと思った。
ミケはそんな俺を見てふわっと笑って語りだす。
俺の知らないミケとの記憶を
俺の覚えていないミケという俺の恋人の思い出を
、
一年目それはほんとに偶然だった。
俺って見た目可愛いじゃん?だからそういうお店で無理やり働かせられそうになってたんだよね。それを助けてくれたのがカズキさんだった。あの頃は俺はまだ学生だったよ。ギリギリ高校三年生。こんな病気だから通信制の学校に通って極力人とか関わらないようにしてた。そんで、それからお礼も兼ねてもう一度会って、友達みたいになって、よく遊ぶようになった。その頃から俺はカズキさんが好きになってたよ。結局、恋人って関係にはこの時なれなかった。
俺は今よりも自分に自信がなかったし何より男だったからね。一年なんてあっという間で俺はカズキさんに忘れられる事実を受け入れるのが怖くて何も言わずに離れたんだ。
懐かしい、と目を細めるミケが遠い
いつの日かに感じたそれと同じだ。
二年目はもう会うことないだろうなーって思ってたんだけど何の因果か病院で再会した。
ああ、こないだの病院じゃない所ね。案の定、カズキさんは俺のこと覚えてなかった。それでも、俺は好きでいることが辞められなくてさ。カズキさんはあの頃からホント変わってないよね、お人好しなところとか。俺が帰る場所ないって言ったら素性もなんにもわからないこんな怪しいガキを家まで連れて帰っちゃうんだもん。ほんとバカ。もっと警戒心とかないのかなって思ったよ。それから、少し経ったあと告白されて晴れてお付き合いすることになったんだ。付き合い始めて少し経ってから初めてキスして、セックスして……俺の初めては全部カズキさんだった。嬉しかった。求められるのも求めるのも許されたあの時間が。でも、二年目は早めにお別れした。もう分かってたから。こんなに幸せなことってきっと長続きしないなって。だから、俺はもう二度とがないように、全部の思い出をしまって、捨ててカズキさんの前から消えた。帰る場所はあるんだ。ただ、そこに俺の居場所がないだけ。ただそれだけ。
俺と話しているのに、ミケはどこか遠くを見てる。
俺じゃない俺を思い出して、愛しそうに目を細める。
三年目は、ついこの間の事のように思い出せるよ。
もう何度俺はニシナさんに恋すればいいんだろうね。いい加減にしろっ!って言いたくなるよ。何度も出会って好きになって、たくさん思い出を作っても俺しか持ってられない。その頃から俺は思い出を形に残すことをやめた。だって虚しい、俺だけが持ってたって意味無いもん。その代わり一緒にいる記憶をたくさん作ろうとした。出会った当初はカズキさんは新社会人だったけど、なんかもうこの頃にはベテラン感出てたよね。あれは面白かったな〜。それからね、またいっぱいキスしてセックスして、色んなとこにも連れてってくれて毎日が楽しかった。幸せだった。それも終わりが来るって分かってたけど。期間限定の幸せだけど俺にはもう十分だった。もう、一人で生きていけるはずだった。だからちゃんとお別れしたんだ。カズキさんは最後まで納得してくれなかったけどね。
四年目、と言っても去年の春だ。
腕を掴まれた時にもう逃げられないんだなって思った。俺からしたらまたかって感じだよ。でも、それでも好きなのは変わらなかった。俺の事なんか覚えてないくせに。昔の自分に嫉妬までしちゃって。俺のこの体も全部、全部カズキさんのためにあるのにそれを勘違いしてるし。たしかに俺はキスもセックスも大好きだけど今までカズキさんとしかシたことないし!もう忘れられることなんて当たり前だけど、久しぶりに思ったよ。忘れて欲しくないって。俺を一人にして欲しくないって、なんで俺だけって。カズキさんに出会って俺は変わっちゃった。何度も何度も繰り返し出会うからいつの間にか忘れられることが怖くなった。
ミケはおしまい、と笑顔だった。
ミケ、ミケ、ミケ、ミケ
俺はいつかのようにうわ言のように名前を呼んだ。
俺は名前を繰り返し呼ぶことしか出来なかった。
ミケは笑って言う
「そんなに呼ばなくても聞こえてるよ」
違う、違うんだ
どれだけ諦めればそうやって笑えるようになるのだろう
どれだけ泣けばそうやって笑えるようになるのだろう
どれだけ絶望すればそうやって笑えるようになるのだろう
君の笑顔は君の涙だ。
泣くことを諦めた、全てを置き去りにしたミケの涙だ。
でもミケは話の中でいったんだ。
「なんで俺だけ」
平気なはずあるか、諦められるはずあるか
俺よりも小さな身体でどれだけのものを抱えてきたんだ。
ミケはまた口を開く
「俺の親も俺の事なんて、もう覚えてないよ」
「…」
「息子がいたことは覚えてるんだ。でも、それが俺だってわからない。それでも俺のそばで俺を育てようとしてくれた。結果、母さんは病んじゃったんだよね」
「…」
「だから、言ったでしょ。俺なんて早く忘れちゃった方がいいって」
さっきミケは帰る場所はあるけど居場所はないと言った。
つまりはそういうことなのだろう
家はあるけれどそこはミケにとって安心できる場所じゃないんだ。
自嘲的な笑顔を見せるミケに腹が立った。
慰めも後悔も違う、俺はミケの本当がもっと知りたい
ミケが殺してしまった、しまって隠してしまったミケの感情を気持ちを知りたい
俺はこれからミケにとってとても残酷なことを言う。
最低で最悪なやつなんだ。
それでも俺は、君が好きなんだ。
「ミケ」
「なあに?別れたくなった?」
俺は首を振る。
あの話を聞いたって俺の気持ちは変わらないんだ。
そりゃ困惑したし信じられないことの方が大きいけれど
それよりも納得してしまった。
君が俺を好きだってことを
君を離してあげられない俺を憎んでいいよ
「俺を忘れないで」
ミケの大きな瞳が見開かれる。
「へ、」
「俺の事、ずっと好きでいてくれ」
「…」
こんなやつでゴメンな
この時、俺は分かっていた。
どんな奇跡が起ころうと俺はミケを覚えていることが出来ないって
だって俺は言ったことがあるはずだ。
何度も、今回だけじゃない
『ずっと』
という言葉を
そんな残酷な言葉を
ミケを縛り続ける言葉を
でも俺はひどいやつでもミケに憎まれてもいい
それでもお前の中に俺という存在を残したい
たとえ、俺がお前を覚えてなくても、刻みたい
「…ははっ、ほんと、ひどいっ…」
「ああ、ごめん」
ミケの止まっていた涙が溢れていた。
こんな時でも綺麗だと見惚れてしまう
「覚えてられないくせにっ!俺のこと忘れるくせにっ!!」
「ああ、でも、お前が覚えていてくれればまた出会えるだろ」
「っ」
ミケの言う通りなら俺は本当にミケを忘れるのだろう
きっとじゃなくて、絶対に
それがわかってるのに俺はなんて残酷なのだろう
残酷で、自分勝手だ。
ミケがこんな風に叫んだ姿を初めて見た。
俺は初めてちゃんとミケという人に触れた気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 28