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プロローグ
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下卑た笑い声。
あまりにも大きいそれを鬱陶しく思うが、相手を見ることができない。
黙らせる方法は知っている。ただ拳を握って体重を乗せて骨に叩きつけるだけだ。
その単純な行動をすることができない。指が動かない。
下卑た笑い声。
まだ聞こえるそれは随分と数が多い。
どれだけ集まっても雑兵であることに変わりはないはずだが、流石に銃を持ち出すとは思わなかった。
朦朧とする意識の中のんきに思い返していると、視界に拳が迫ってくる。脳を揺さぶられるような衝撃の後、俺は意識を手放した。
◆ ◆ ◆
「おい、生きてるか」
意識が戻ったとき、最初に聴いたのはそんな言葉だった。不思議とよく脳に通る声で、体を揺さぶられた感覚もないのに目を覚ますことが出来た。
「……」
何か答えねばと声を出そうとするが、目を動かして相手を見ることしか出来ない。
「目が動くなら生きてるな。喋んなくていい」
そんな俺の心情を察してか、返答もないのにそう言う。だがその時俺が感じたのは胸の内を知られた驚きでも喋らなくても伝わる感謝でもなく、ただ目の前の男、そいつがもつ顔の造形が余りにも美しかったと言うことだ。
憂いを帯びた深い青色の瞳に、固められた髪の数ヶ所から落ちる髪の束。艶やかな唇はくわえられた煙草まで妖艶に見える。
男に興味が有るわけでもない俺でも美しいと思う、そんな奴だった。
「死体を持ち帰る趣味は無いからな。体が痛んでも死ぬより良いだろう。ちょっと乱暴に扱うが我慢し__」
面倒そうに言うその顔に、血が見えて、記憶上のさっき動かなかった手で拭う。傷の感触はない。返り血だろうか。
「……餓鬼。人の心配してると死ぬぞ」
餓鬼、と、俺を見据えて言う。ひとつや二つぐらいしか違わないだろうに。おかしな奴だと思っている間に、体に激痛が走る。余程弱っているのか、俺はまた意識を手放した。
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