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傷痕と劣情-3
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「これはまた随分と…荒れてるな。」
終業時間間近でどこか気の抜けた空気が漂うオフィスの一角。目の前に座った大男が気まずそうに放った一言が、ゆうじの心の傷を抉った。
荒れてる、か。
ごもっともだ。俺の心は汚れて荒みきっている。
「もうほんとに、俺は駄目なんだ…駄目人間だ…。頼む、俺を罵ってくれ…。」
思い出すのは先日の大失態。深くため息を吐いて、両手で顔を覆った。
「まあそんな落ち込むなよ。」
「自分でも分からないんだ。なんであんなこと…。」
あの日のことは何度も考えた。自分の気持ちも、りつの気持ちも。そしてやっぱり辿り着く結論は、自分が最低な人間だということ。
だってあの時の俺は、確かに身に覚えのある感情をりつに抱いていたんだ。あれは邪な下心以外の何物でもなかった。
やっぱり最低じゃないか。たまたま思い止まっただけで、やろうとしたことはあの子の父親と変わらない。
そう思うとお腹の奥がどうしようもなく気持ち悪くなって、肘をついていたテーブルに突っ伏した。
「最低だ。俺は。」
それは固く噛み締めた歯の隙間から、絞り出したような声だった。
「どうしたらいい?自分が気持ち悪い。もう…もう、分からないんだ。」
「…お前はさ、りつくんとどうなりたいんだ?」
相談相手になってもらっていた十束が迷うような声で問いかける。
どうなりたい、なんて。そんなのはあの日から変わってない。
「俺は、りつに幸せになってほしいんだ。」
傷だらけのあの子を、悲しみの底から救い上げたい。もう泣かなくていい、傷付かなくていい。
「もう二度と理不尽な暴力に怯えなくていいように。楽しい思い出をたくさん作って、綺麗なものをたくさん見て、好きな人に出会って…。そうやって幸せになってほしい。」
この思いは嘘じゃない。
嘘じゃないのに。
りつへの想いを吐露するゆうじの声に静かに耳を傾けていた十束は、暫く考えて「でも、」と苦笑する。
「幸せって、何だろうな。」
「…少なくとも、変な道に引き込むことではない…だろ。」
「いや。好きなものは好き、だろ。」
「んだよ、それ。」
「俺はお前のこと、気持ち悪いなんて思ったことねーよってこと。」
2人の会話は噛み合っているようにも、噛み合っていないようにも聞こえたけれど、それを指摘する気にもならず、十束と別れて帰宅するまでの間もただずっとりつのことを考えていた。
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