アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
四話
-
「綾ちゃん、それは恋だよ!」
どうしてそうなる。事の発端はケーキ屋事件から数日が経ったある日のこと。
結局、俺もあいつを追いかけはしないが、何にも進展がなかったある日の放課後。家に帰ると玄関のドアが開いていることに気づいた。これはあいつが、この家にいる証拠だった。
「綾ちゃん、おかえりー!待ってたわよ!!」
まるで自分の家のようにソファに座って俺を出迎えたのは栗栖原葉桜くるすはらはお。俺、九条綾瀬の幼なじみだ。一応、女子である。一応。俺より二個下の葉桜は中学生なのだが、何故か髪の色を桃色に染めて、緑のカラコンを入れている。そんなとてつもなく派手な格好と、常日頃の突拍子もない行動で、俺はいつも振り回されていた。葉桜に関わるとろくなことが無い。そう学習しているのに、いまいち突き放せないでいる。
「で?今日は何の用だ」
「綾ちゃん、先日駅前のケーキ屋にいたでしょ。しかもすっごい美人な男の子連れてさ!」
ギクリと身体が強ばった。その情報は葉桜だけには知られたくない、俺の中でも極秘情報だった。・・・まあ、ホントのところ隠す気もなかったやけだが。
「・・・つーかどこの情報だよ。それ」
「綾ちゃんのことで知らないことなんて私にはないのよ!」
ふふんと、自慢げに胸を張る葉桜はやっぱり俺のストーカーなのかもしれない。家の鍵だって勝手に作って、持っているくらいだし。本当に手に負えないやつである。そもそも、誰の許可を得て鍵を勝手に作っているのか。俺の親はこいつが勝手に出入りしているのに気づいているのか。
「綾ちゃんどうなのさー、あの美人な男の子は何者なのー」
「俺が探していた、北中の龍だ」
「うそ!見つけたの?三年も付け回してやっとみつけたの!」
「人をストーカーみたいにいうんじゃねぇ」
「ストーカーじゃん。どう見ても」
何故か呆れたように俺を見る葉桜をこの家からつまみ出してやりたい気持ちを必死で抑えた。
「嫌いじゃなかったの?」
「なにが」
「北中の龍のこと!嫌いだ嫌いだってすっごい鬱陶しいくらい言ってたじゃん!」
そうだ、俺はあいつのことが嫌いだ。なのに気持ちとは裏腹にあいつに関わっているのも事実だった。
葉桜に事の経緯を説明した。すると葉桜の超訳でいくと「それは恋だ」って言うことらしい。こい・・・恋?
「んなわけねぇだろ!あいつは男だぞ!?」
「もー、硬っ苦しい。恋に性別も国籍も関係ないのよ?男女だけが恋に落ちるわけじゃないの!」
「綾ちゃんにも春が来たんだね!これはいいこと聞いたわ!」と何故か俺すら自覚のないありえない感情が芽生えたことに一人浮かれている様子の葉桜に俺はやはり着いていけない。というか恋じゃないのに。何言ってんだこいつは。
「恋以外のなにものでもない・・・綾ちゃんの初恋」
「おい」
「綾ちゃん、初恋は実らないっていうけど、私、全力で応援するから!」
「おい」
「綾ちゃんの初恋を応援したい!」
「おいって言ってんだろ!!ちっげぇよ!!違う!!本当にいい加減にしろよ!!!」
この日、俺に葉桜の暴走を止めることはできなかった。本当にいい加減にしろ。はっ倒すぞ。
*
あくる日の放課後、事件は起こった。
「それは、もう友達じゃないか」
俺は困っていた。今日は義理の父親が入院している、病院に面会に来ていたのだが・・・どうしてこうなった。義父さんに話す話題が無さすぎて、仕方なく先日、九条と言ったケーキ屋の話を引っ張り出して話すと義父さんはキラキラと目を輝かしながら、九条は俺にできた結心以外の友達だと認識してしまったのだ。どうしよう。
「いや、友達じゃないよ?ケーキ屋行ったり、昼飯たべたり、話したりするくらいの・・・」
「それを友達って言うんだよ、亜澄」
義父さんは友達が出来たとはしゃいでいるが、九条と俺は友達なんていういい関係ではないのだ。うん、マジで。友達なんて言ったら九条にシメられる。早く誤解を解かねば。そういえばと口を開いたのは義父さんだった。
「そういえば、検査の結果はどうだった?」
「え?・・・ああ、うん。まあ、ぼちぼち、かな」
「・・・そうか。亜澄こそ、無理はするなよ」
父さんは優しい人だ。こんな俺にも優しくしてくれる。こんな、俺にも。
優しさが、とても痛かった。俺の心では、とても受け入れられないくらい、大きな愛情だった。本当は全てわかっているのだろう。検査結果も俺が嘘をついているのも。でも聞かないでくれた。それがとても優しくて、つらかった。
「それにしても、春日先生の息子の結心くん以外の友達ができたなんて、もう少ししたら退院だから母さんにも知らせてやらないとな」
「・・・もういいよ、友達で。義兄さんには知らせなくていいから、面倒なことになるし」
「わかっているよ」
なんとなく父さんに違うという言葉が届かないことに気づいた俺は、もう友達でいいことにした。・・・多分、違うけどさ。
「あれ、飲み水ないの?」
「ああ、ちょっと切らしてるみたいだ」
「じゃあ俺が売店まで行ってくるよ。飲み水ないと大変だろ?父さんも」
「じゃあ、頼むよ」
俺は病室から出て売店に向かった。まさかあんなことになるとは露知らず、病室を出ることを選択した自分に後々、後悔することになる。
売店に向かって歩いていると、内科の待合に見知った姿を見つける。
「結心・・・?」
そこに居たのは俺の幼馴染みの結心だった。ちなみに結心はこの大きな病院の院長の春日先生の息子だったりする。本人曰く、いつかこの病院を継がなければいけないらしく、病院内でよく姿を見かける。でも今日は待合の椅子で何かを待っているだけだった。状況がよくわからず首を傾げた。すると相手も俺に気づいたのか手を振ってきた。
「なにやってんの?春日先生は一緒じゃないの?」
「いやー、今日はその用事じゃないんだ〜、亜澄はいつものやつとおじさんのお見舞い?」
「うん、まあ」
「オレはさ、なんか拾い物しちゃってさ〜」
あははとなんだかバツが悪そうに笑う結心。拾い物?もしかして体調悪い人でも拾ったのだろうか?でも結心は自分に理もない、わざわざ知らない人に世話を焼くような人間ではない。ということは知り合いなのかもしれない。
「あ、そうだぁ!!亜澄がその子を家まで送ってくれない?」
「は?なんで?」
「オレより適役だからだよ」
何を言っているんだ。よくわからない。ますますわからない。すると診察室から、お大事にーという看護師の声が聞こえる。そこから出てきたのは、
「あ、九条〜!どうだった?風邪?」
「え、九条?なんで・・・」
「とりあえず熱があるらしい。風邪というか・・・まあ、知恵熱みたいなもんだって」
真っ赤な顔でフラフラとしながらそう言う九条は、明らかに体調が悪そうだ。大丈夫なのだろうか。少し、ほんの少しだけ心配である。
「というわけでー、亜澄!後は頼んだ!!」
「はあ?」
「緊急ミッション!九条を家へ送り届けろ!だよ!」
にこやかにそう宣言した結心は「おじさんには上手いこと言っとくよ!亜澄に友達が出来たってさ!よろしくね〜」と言いながらスキップしながら去っていってしまった。マジか?マジで言ってるのか?お前なんて爆弾を落としていったんだ。いきなりのミッションに結心の背中を呆然と見つめることしかできなかった。フラフラの様子で俺のとなりに立っていた九条は遠慮がちな声色で、
「別に一人で帰れる。大丈夫だ」
と言っていたがもうあれだ。ほっとくと事故にでも巻き込まれそうな姿をみたら、さすがに放って行く方が勇気がいる。そのくらい九条は弱っていた。うーん、そうなると。
「いや、送っていくよ」
この選択肢しか残されていなかった。まあ、乗りかけた話?というか乗せられてしまったこの状況を放っておくほど俺は腐ってなかったようだ。
最近、追いかけては来なくなった九条だが、こう、二人になるといくら相手が弱っているとはいえ警戒というか、緊張してしまう。だって俺は九条に嫌われているポジションの人間のはずだからだ。どこが適任なんだろう。と真剣に悩んでしまうくらいには、九条にとって俺は良くない相手のはずなのだ。うん。どうしてだ。
病院からは徒歩で帰れる距離に九条の家はあるらしく、九条のとなりを歩きながら徒歩で帰っていると、この地元では有名な高級住宅街の中に入る。九条はこんな大きな家に住むくらいにはいいとこのボンボンらしい。なんとなくイメージできない。
高級住宅街の一角の中でも一際大きな家が見えた。表札には九条と描かれている。
「・・・ここ?」
「ああ、・・・ありがとな」
「ううん、別にいいけど。ゆっくり休みなよ」
「・・・・・・」
九条は門に入り、扉の前で鍵を出そうとしているのか鞄を漁っていたのだが、不意に動きが止まった。
どうしたのだろうと思い、近づいてはみたが、九条に反応がない。
「九条?どうした?やっぱり体調悪いのか?」
「・・・嫌だ」
「は?」
「一人は・・・嫌だ」
ぽつりと零れた九条の言葉はまるで小さな子供のわがままのような、そんな言葉だった。
「一人なの?親は?」
「今日も帰ってこねぇよ」
九条はまるで一人置き去りにされた子供のように寂しそうな様子で、
(今日も、ってことはあんまり帰ってこないのかな・・・?)
「とりあえず、中に入ろう、外はまだ寒いか・・・」
ら、言おうとして九条は、まるで縋るような瞳で、
「俺の、そばにいてくれ」
そう言い残しぐらりと俺に倒れ込んできた。・・・ってあれ?倒れこんで・・・?
「おい!九条!?九条!?」
九条は思ったより重病だったらしい。これはもしかしなくても、
「今、九条の面倒見れるの俺しか・・・いなくね?」
なんでこんなことに。結心のばかやろう。やっぱりこうなるんじゃないか。
いろいろ言いたいことはあったが仕方ない、申し訳ないと思いつつ、九条の鞄を漁り、俺は扉の鍵を探し、俺は九条の家の中にお邪魔したのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 15