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六話
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眩しい、光。なんだか、あたたかい。気持ちがいい。もう少しねていたい。
「九条!!朝だ!!もう七時だよ!?」
「んん?七時?もう少しねる・・・」
「もうその様子だと体調は大丈夫なんでしょ?!起きた起きた!」と無理やり俺は叩き起された。ああ、そうだ。こいつ、本当に俺のそばにいてくれたのか。なんとなく申し訳なくなった。でもおかげで体調はもう大丈夫なのか、身体は軽い。昨日の熱っぽさが嘘みたいだ。
「三十六度・・・大丈夫だね、じゃあ、学校いくぞ」
「ちょっとくらい遅刻しても良くないか・・・またねみぃ」
そういいながら、ベッドに潜り込むと、そんな俺を見つめて「それが積み重なって、留年・・・可哀想に・・・良い奴だったよ」と一人鞄を持って玄関に向かおうとしていた。まて、なんだと?まだ何もわからないのに留年するだと?こいつ、
「まだ留年するなんて、決まってねぇ!」
「そんだけ元気があるなら大丈夫だな。おはよう、九条」
「はー・・・ほんとムカつくな」
でも昨日はそばにいてくれて本当にありがたくて、俺を見てくれたのはうれしかった。人には優しいだとか言いまくってるけど、こいつも大概、馬鹿がつくほど優しいと思った。人のことを心配して、自分の過去を話してしまうくらいには、お人好しだと、昨日と今日でわかった。そんなに他人のことを、自分を嫌ってる人間に、そこまでなんてしてやるんだと思ってしまうくらいだ。
・・・でもよくわからなかった。今、本当に俺はこいつの龍城亜澄のことが嫌いなのか。俺の中でわからなくなっていた。
「九条?」
不思議そうに首を傾げるこいつに俺は戸惑ってしまった。嫌い・・・なんだよな?俺は、こいつのことが憎くて、嫌いで、追いかけていたはずなのに。今では知りたい、関わりたい、そう思っているのは何故なのか。わからなかった。今の俺には、わからなかったんだ。
*
「ええ?そんなに体調悪かったの」
朝、自分のクラスに入ると、結心がヒラヒラと手を振っていたので、何も言わず一発ゲンコツをかましておいた。
そして、事の経緯を話すと全く悪びれもなく「それは亜澄に迷惑かけたねぇごめんねぇ」とケラケラ笑う。なのでもう一発ゲンコツをかましておいた。
「あんなに!弱ってる!やつを!放っておいて!俺がいなかったらあいつは!!道端で倒れてたかもしれないんだぞ!」
「うーん、ごめんねぇ・・・でも悪くなかったんじゃないの?九条とふたりってのもさ?」
その言葉にも思わず口を噤む。悪いことばかりではなかった。本当に悪いことばっかりじゃなかったのが、悔しい。九条といるのは案外悪いものじゃなかった。むしろ少し居心地がいいような気もしてしまっていたから。・・・嫌われているのに。でも九条の新たな一面を見れて、うれしいと思って、できもしないのにそばにいると言ってしまった。放っておけないと思ってしまった。
「なに?浮かない顔して・・・別に悪いことばっかりじゃなかったならそんな顔をしなくてもいいのに」
「だって・・・俺はさいごの場所としてこのを選んだのに・・・」
これじゃあ、本末転倒である。俺は未練や関わりを経つためにここを選んだのに、幼なじみの結心はいるわ、一人にしてくれない九条はいるわ・・・なんでこう上手くいかないんだろう。俺はもう、
「だから言ったでしょ?変わってもいいんだよ、人なんて変わっていく生き物なんだから」
「でも、俺は、それを許したくないよ」
自分が許せない。変わっていく、自分を許してはいけない。変わって、あのことを忘れてはいけない。薄れさせてはいけないのだ。・・・だから、変わりたくない。でも変わってしまうそれが苦しかった。
「亜澄・・・」
その時だった。教室のドアが開き、教室がザワつく。皆の視線の先には話題に上がっていた九条の姿があった。
さっき別れたはずなのに、何故ここに来たのだろう。そう思っていると、
「ほらこれ」
九条はジュースを俺に差し出してきた。
「え?どうして?」
「昨日と今日のお礼、ありがとな」
九条は恥ずかしそうにそっぽを向きながらそう、俺に聞こえるか聞こえないか位の声で伝えてきた。
九条はいいやつだ。とても、律儀で、優しい、
「うん、ありがと」
ジュースを受け取る。でも、でも、こんなこと知りたくなかった。人と関わるのがうれしいなんて、思い出したくなかった。うれしいのに悲しかった。人と関わっても俺は、何も返せないのに。
「んだよ、その顔」
「え?」
「・・・いや、なんでもねぇよ・・・じゃあな」
不服そうな顔をして九条は去っていってしまった。九条、
俺は、お前と出逢いたくなかった。
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