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十二話
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場所を変えて中庭。俺と九条はぼんやりと中庭のベンチに座りながら俺のことを話していた。
病気のこと、あと一年も生きられないこと、それを聞いたやつ大概の奴らは離れていったこと。
そして、もう生きるのが疲れたこと。
全ては話せなかった。あのことだけは、話せなかった。
九条も何か引っかかりを感じているようだった。俺がなんで、生きることに疲れているのか。
でも九条は黙って聞いていた。 ポツリポツリと話すを俺の言葉をただ黙って聞いていた。
「ありがとう、九条」
「・・・何がだよ」
「この間は嫌いって言ってごめん。あれは嘘だった」
「あの面見たらわかるよ」
九条はわかっていたのか。だから諦めないと言ってくれたのか。そう思うとなんだか涙が滲む。
確かに俺の中にズカズカ入り込んで来たのはいただけないけど、そんなやつ今までいなかった。俺の話を聞いてくれる人も、いなかった。
だからなんだか、
「俺も、てめぇのこと嫌いじゃねーよ。まあ、逃げたり気に食わないことは多々あるけどな」
「・・・そっか」
九条は・・・あのことを聞いても傍にいてくれるのだろうか。そう思ったけどやっぱりあのことを言うのだけは気が引けたし、勇気がなかった。
「九条、ありがとな」
「なんで」
「いろいろ、だよ。・・・でも俺はやっぱり生きたいとは思えないよ」
「・・・・・・」
「でも、死ぬ前にお前みたいなやつに出逢えてよかった」
生きてほしい。と面と向かって言われたのは初めてだった。それだけで、今までのことが全て救われた気がした。病気になったことが九条との出逢いに繋がったのならば決して無駄ではないのかもしれない。そう思えた。
九条は俺に近づいて来た。あれなんかこれ、
ゴッ
九条が俺の額に向かって頭突きをかましてきた。
「・・・痛い、今の流れで普通頭突きする?」
「お前がふざけたこと言ってるからだ」
ふざけてはないはずなのだが・・・どういうことだ?
「てめぇは生きるんだよ。俺のとなりで」
九条の目は真剣だった。俺、生きるのが疲れたって言ったよね?しかも一年しか生きることができないって言うのも説明したよね?
なのに九条は諦めない。俺が生きることを真剣に望んでいた。
「いや、それは、」
「無理だよは、なしだぞ」
無理だろと言いたかった。話聞いてた?無理なもんは無理だ。現実はそう甘くはない。俺は一年後にはここにはいない、生きていないのだ。
「例え、お前の残りの時間が少なくても、俺が諦めない。俺がお前を生きたいと思えるようにしてやる。諦めるなんて許さない」
そう言った九条は本気だった。・・・本当に変えるのだろうか、俺の諦めているこの心を、九条が変えてくれるのだろうか。そんな希望が少し湧いてしまう。
「・・・勝手にしろ」
俺はそう簡単に変わらないと思う。自分が生きたいと思う未来が見えない。でも、それは、俺の考えだ。九条は俺の未来は諦めないのほ自由だから。
俺は思わずため息をつく。まさかこんな諦めの悪いやつがいるなんて。
嫌いじゃないから、といって何故そんなに俺に関わろうとするのかは未だ理解できないけど。
*
何もかも諦めて欲しくない。ただ単純にそう思った。それに、
(こいつはまだ隠してることがある)
生きることに疲れたのは、きっと、何か生きることが疲れるようなことを知ってしまったからだ。
でもそれ以上に何か大切なものが見つかれば、亜澄がまた生きたいと希望を持つかもしれない。そしたらなにか道が開けるかも知れない。
諦めるてるやつに奇跡はやってこない。それならば諦めなければ奇跡がやってくるかもしれない。
正直自分自身、なんでこんなに亜澄にそこまでしたいのかわからない。そばでとなりで生きてほしいと思うのは事実で偽りない俺の気持ちだった。
この感情の名前はわからないけど、今はその感情に名前を付けなくてもいいと思った。その感情に従ってこいつの亜澄のために頑張る方が先だと思ったのだ。
・・・本当は、ただこの感情に目を背けていただけなのは、後から気がつくのだけれど。
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