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十四話
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「大丈夫?亜澄・・・」
「だっ、大丈夫・・・!」
4月末、ゴールデンウィーク前の校外学習の日。
キャンプ場へと向かうためにバスに乗り、キャンプ場のある山のふもとまで来た。そこまではよかった。
「想像以上にきついな・・・」
「山道だしね・・・どうする?先生に言った方がいい?」
結心が俺の体調を気遣い、先生に今この状況を伝えるか尋ねる。そりゃそうだ。正直、キャンプ場までたどり着けるかわからない。今日はいつもより少し体調が悪かった。ただそれだけなのに、こんなに体力を消耗するとは。
だが、ここで先生に俺の体調を伝えれば、俺は即刻、バスに逆戻りだ。それだけは避けたい。俺はなんとしてでも星ヶ丘キャンプ場へ行きたいのだ。俺が首を横に振ると結心が咎めるような声色でこう俺に言った。
「亜澄、ただの校外学習だよ?そんな無理する必要性はないって」
「俺は行きたいんだよ!キャンプ場に!」
もうただのただの駄々をこねる小さな子供だと言われても良かった。俺はどうしてもこのチャンスを逃したくなかった。さいごかもしれないそう思ったらいてもたってもいられなかったのだ。俺はあのキャンプ場に行きたい。・・・でも体力が無くなっていってるのは一目瞭然で、どんどん俺たちを置いて前へと進んで行った。
(ここまで、頑張ったのに・・・!)
その時だった。
「おい、大丈夫か?」
「くじょ、う?」
そこには心配そうな顔をする九条の姿。
「大丈夫、だよ」
「大丈夫じゃねぇだろ」
九条は俺の姿をみて顔を顰めた。そんなに傍から見て酷い状況なのだろうか。俺は。
九条はしばらく考える素振りをみせると、いきなり俺の前にしゃがんだ。
「え・・・?」
「乗れ、おぶってやるから」
「なんで」
「行きたいんだろ、キャンプ場」
九条は「早く乗れ」と俺を急かす。俺は目を瞬かせた。
驚いたが、今の状態この状況。体力もない、このままではバスに逆戻り。それならば、
「背中借りるよ、重かったらごめん」
俺は九条の背中に乗った。・・・正直、九条の負担が多い気がして、申し訳なかったけど助かった。あのキャンプ場に行きたい俺は、九条に感謝しかない。
九条は俺を背負って歩き出す。なんかこう、こうも軽々おぶられるとちょっとショックだった。俺はそんなに軽いのか。同年代の男のはずなのにこうも差があるのは少し、男としてのプライドが傷んだけど、それよりもこの状況に感謝するしかない。そんなことを思っていた。すると、
「お前・・・軽すぎんだろ、甘いものしか食べてねぇんじゃねぇか?」
「食べてるわ!!こっちは体重維持で必死なんだけどな!!」
多分、そんなに意味は無いんだろうけどイラッとした。だがしかし、こう九条の背中を見ていると同じ男として羨ましい限りの体格だった。背中は広いし、筋肉はついている。背丈もある。しかも顔はイケメン。なんか、勝負もしてないのに負けた気分だ。
でもなんとなく安心した。こいつになら任せられる。キャンプ場に無事たどりつけそうだ。
「なあ、なんでそんなに行きたいんだ?キャンプ場に、別に校外学習なんか面倒なだけだろ?」
九条の意見は最もだ。校外学習なんて面倒だし、体力のない、しかも病気持ちの俺ならちゃんと上の人間に伝えたら、免除してもらえたはず。そう思ったのだろう。
「・・・行きたかったんだよ、あのキャンプ場、小さい頃、父さん・・・亡くなった家族と来たことがあって。なんとなく、その時のこと思い出したら、行かなきゃって思ったんだよ」
「・・・そうか」
「行ったとしても何か変わるわけじゃないし、父さんが生き返るとかそんなの、ないんだけどさ、俺は」
我ながら安直で、くだらない理由だと思った。でも九条はそうなのかと律儀に聞いてくれる。それが、俺には心地よかった。
「ごめん、関係ないのに巻き込んで」
「別に、行きたいんだろ?それに俺は亜澄が来たからこの校外学習に来ようと思ったんだよ。お前がいなきゃ意味がない」
「そんな理由で校外学習にきたの?」
「そうだよ」
九条の単純な理由に、俺は少し笑ってしまった。
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