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ーー捨てられた? どうして?
ここにいるよ、としきりに声をあげて鳴いた。どこまでも響くように、姿の見えない家族に届くように声を震わせて鳴いた。
遠くになんて行ってない。あと数時間もすれば、ただいま、と帰ってくるから、たくさん甘えよう。
ーーねぇ、だから、帰ってきてよ。
「そこにいるの? こっちまで飛び移れる?」
呼びかける少年の声がして、再び窓の向こう側を見つめる。
目が合うと、その少年はおいで、と両手を差し出してくれた。
隔てる1枚のガラスに向かって体当たりするも、びくともしなかった。
少年は窓の鍵の位置と開け方を、ジェスチャーして教えてくれる。
前足を使って、やっと出来た隙間から助走をつけて飛んだ。
数メートルを滑空する間に、今までの家族との思い出が全て剥がれ落ちていく気がした。
決して怖くはなかった。この高さから落ちても、上手く落ちれば怪我なんてしない。
そのときは野良として生きていくだけだ。
「あぶな……っ! 結構重いなぁ、お前」
新しい小さな主人は、僕を抱いて明るく温かい部屋に入れてくれた。
ーーご主人、これからよろしくね。
にゃあ、と鳴き声を上げると、春樹はしーっと人差し指を自分の唇にあてて、僕の口を手のひらで覆った。
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