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その痣が薄れても消したくないのです、この関係を。 (不良と)
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不可抗力で金獅子にぶん殴られた手の傷痕はだいぶ薄れてきた。
ブレスレットの模様が赤黒く浮かんでいた手の甲は今はもう模様を見出すことはできない。
動かすと微かに感じていた痛みも消え失せた。
それでも。
「…では杉田氏、自分はこれで」
金獅子の姿を見て丹下は笑顔で帰って行った。
相変わらず金獅子は俺を下駄箱傍の柱に凭れて待っている。
じっと俺が下りてくるだろう階段を睨みつけながらそこに立っている。
そして、俺を見つけて少し表情を和らげて。
それから隣を歩く丹下に顔をしかめる。
丹下が速やかに俺から離れるのをじっと見て(睨んで)から俺に近づいてくる。
靴を履き替え終えるのを待って、それから。
俺の手を取って、痣を確認する。
薄くなった鬱血を親指で撫でて、そのまま俺の手を握り込む。
繋がれるような形で、手を引かれる。
そのままで下駄箱を後にする。
ただでさえ目立つ金獅子に手を引かれている。
これだけで注目を集めるのは当然のことで。
それでもその手を振りほどくことをしないのは相手が金獅子だからだ。
怒らせてはいけない。
そんなこと森光に言われなくてもわかっている。
ぼこぼこにされるのが目に見えているのに怒らせるようなことするか。
飽きるまでだろ、どうせ。
それか、この痣が消えるまでだ。
だからもう少しの辛抱。
「なぁ、痣さ…だいぶなくなっただろ?」
「…あぁ、」
繋がれたまま、金獅子の親指が撫でるように動いた。
優しいその動きがくすぐったい。
何だろう、この優しさ…むずむずする。
「だから、もうそんな心配とかしなくていいよ」
そう言うと、金獅子は立ち止った。
それに合わせて俺も立ち止った。
彼を見上げると不思議そうな顔で俺を見下ろしてた。
「この痣、責任感じてたんだろ?もう大丈夫だから」
別にもう帰りとか迎え来なくていいし。
そもそも不自由ないし。
一緒に帰らなくてもよくね?
そんなことを言ってみたわけだ。
そしたら、そしたら。
「…な、何で、」
「へ?…痛ッ、イタタタタタタッ!!!!??」
握られてた手が思い切り力をこめられて。
痛い、折れる、マジで!!
何でこんなことされてるの?
手が握りつぶされるんですけど!
思わず手を振り払った。
これは防衛本能だ。
痛いんだもん、潰されたくないもん。
「…ま、真智は…俺が嫌か?」
離された手をさすってると震えた声がして、肩に手が乗って。
見上げると絶望した顔で俺を見ている。
ちょっと怯えたような、そんな目だ。
何でだ、どうした。
俺が嫌いか?って、何ですか。
どういうこと、何がどうなってそうなった。
ぽかーんとしてる俺を他所に金獅子は肩から背に手を這わせる。
ぎゅっと力をこめられたのに、どこか弱弱しい。
「嫌だ…真智、嫌いにならないで」
背中に回った腕が震えている。
何で、こんなことになってる。
「あの、」
「真智、傍にいて?ずっと…俺といて」
掠れた声、ちょっと鼻を啜る音。
耳元で聞こえるそれがやけに幼い。
大きな子供のようだ。
「き、」
「真智、好きだ」
好き、好きだ…
ずっと譫言のように繰り返す言葉。
浮かされたような、熱を帯びた声。
「…何で、」
何で俺を?
あの日たまたま出会って。
ちょっと話して、触れて。
それだけなのに。
わからない、全然。
既に金獅子の鼻からなくなった絆創膏。
俺の手から消えそうな痣。
それなのに金獅子は俺との関係を消したくない。
包み込まれるような腕の中。
ここは往来だとか、そんなこと忘れてた。
それよりも、金獅子の腕が思ってたよりも心地よくて。
その声がくすぐったくて。
もうちょっとだけ傍にいてもいいのかとか。
そんなことを思った。
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