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世の中は不公平でできている。 球技大会6
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バスケは決勝まで行ったんですって。
丹下がゾンビかってくらい疲労困憊で言ってた。
頑張ってるみたいなので、次の試合は観に行ってあげようと思う。
負けて暇だしね。
てゆーか、
「あぁ、彰嗣のクラスか」
「忘れてたな、あいつバスケも出てたっけな」
森光と二人、相手チームに彰嗣を見つけてうわぁと呟く。
あいつ、確か昼の時に卓球とバレーも勝ち残ってるって言ってたぞ。
午後少なくとも各競技一試合はやってるはずだ。
「化け物だなあいつ、さすが全身筋肉」
「スタミナ〇郎の称号を差し上げたい」
自分のクラスの方へ進みながら呆れを含んだ笑いを漏らしつつ彰嗣を見れば、タイミングよくあいつもこっちに気付いたようで。
「あ!真智ー!!!」
ぶんぶんと手を振ってくる無邪気さ、殺意が芽生える。
そしてギャラリーの女子の殺意が俺に向いている、気がする。
彰嗣がめっちゃ俺に良い笑顔を向けていること、そして森光が隣にいること。
これから丹下のもとへ向かえば殺意は増すのだろうな。
「俺、帰ろうかな…」
「丹下が泣くぞ」
「…何それキモイ」
あいつ泣くの?そんな機能付いてるの?丹下だよ?
そう言ったら、あいつも人間ですと森光にデコピンされた。
女子の殺気が増しました、俺が泣きたい。
「それにしても、丹下は大丈夫なのか?疲れて腐りそうだったけど」
「…ベンチに沈んでるな、開始前なのにジョーみたいだ」
「可哀想にな、あいつスタミナないから…声かけないでおこう」
ベンチに沈み込み全く動かない丹下を遠目に見ながら、俺と森光は他のクラスメイトが陣取る一角に合流。
丹下ってばこんなんで彰嗣とマッチアップしたら死ぬかもしれんな。
重戦車に生身で突っ込むようなもんだ。
「…骨は拾ってやろう」
「死亡フラグですか」
森光がやけに険しい顔で言うから本当にあいつ死ぬんじゃないかって思ってしまうが。
たかだか高校の球技大会で死者が出るわけもない。
大丈夫、だって丹下だし。
俺の薄情な言葉を後押しするように試合は始まるわけで。
ジャンプボールの瞬間から勝負が決まってるような気がした。
彰嗣のクラスがボールを取ると速攻。
あっと言う間に攻め込まれたところでボールが彰嗣に渡る。
瞬時に彰嗣に二枚張り付いた、完全に封じるつもりらしい。
「彰嗣に二枚つけるって、相当警戒してるな」
「…いやぁ、二枚でも無駄でしょ」
「あ?」
彰嗣がDF二枚で防げるなら全筋の名前なんて付けないしバスケ部の助っ人もない。
ましてや素人のDF二枚なんて。
「そもそもあれで防げるなら名門校からスカウトなんて来ないって」
「バスケも来てたのか」
「剣道とバスケとテニスでスカウトきてたんだよあいつ」
「全部蹴ってうち来たとか…逆に気持ち悪いわ」
一年ごとに部活変えてたからね、中学時代は。
お陰で馬鹿でもスポーツで入れてくれるトコからいっぱいスカウト来たのに。
全部蹴って一般受験してうち入ったという…勿体ない。
何でスカウト蹴ったのか理由聞いた時、戦慄したけどね。
想像つくだろうから言わないでおく、思い出しても寒気するし。
そんなんで人生決めるあいつはどうかしてる。
そんなことを思い出してる間に彰嗣は二枚はり付いているDFを一人は右に振ってかわして、もう一人が正面を塞ぐと横に抜けるように体を傾けてステップで切り返し、ボールは相手の股下を抜けて、相手を抜いた彰嗣の手に引き寄せられるように収まる。
そのまま流れるようにドリブル、完全に彰嗣の目は、体は、リングを狙っている。
ゴール下を守るために構えてるバスケ部の奴は表情が反対に厳しい。
彰嗣のスキルがわかってるからこそ気が抜けないということだろう。
シュートコースを塞ぐように手が広げられる。
助っ人だった彰嗣の得意なシュートコースを少しは把握しているのだろう、一瞬彰嗣の動きが止まるとDFも意表を付けたことに自信を取り戻したようだ。
厳しくガードを続け、ゴールの正面に向けていた体を反転させることに成功させている。
これは、パスに移行するか?とその場にいたほとんどが考えたと思う。
しかし、そんなに甘い奴じゃない。
ボールを持ったまま、彰嗣は左に反転したと思ったら次の瞬間には右側に反転、体をゴール正面に向ける。
スピードについていくのにやっとなDFが慌てて正面に回りガードの手を上げた時。
彰嗣は後方に飛ぶとDFのガードの手の上を通りすぎるように山なりのシュートを放った。
吸い込まれるようにしてボールはリングを抜けていく。
微かにネットの擦れる音がして、それからボールの跳ねる音。
わぁーっと上がる歓声に彰嗣は照れ臭そうに笑った。
「あいつ、フェイダウェイもできんのかよ」
「つかDFかわす時のスピード尋常じゃねぇぞ」
バスケ部の呟きは驚きそのもので。
森光もいつものお馬鹿な彰嗣と同一人物と思えないのか物凄く彰嗣を凝視している。
「最初のフェイントの時も思ったけどすげぇボディバランスだな」
「あいつね、目隠しして片足立ち一時間以上できるから」
「体幹強すぎだろ」
凄過ぎて引くわ…と呟く森光にずっと一緒にいると麻痺するぞと思いつつ試合に目を戻したのだが。
「「え?」」
俺と森光の言葉が重なった。
コートに目を戻すとジャンプシュートを丹下が放つ瞬間だった。
放物線を描いたボールがガコン、と音を立ててゴールリングに落ちた。
ボールが跳ねて転がる音、静寂が訪れた。
「…今の、バックステップしてシュートしたよな?」
「あ、あぁ…しかもスリーポイントラインから」
彰嗣の時以上に呆然とした声でバスケ部が話してる。
俺と森光も呆然としている。
DFが詰めて来たところに丹下は一歩ドリブルで踏み込んで下がらせ、逆にバックステップを使って距離を作るとジャンプシュートした。
ブロックしようとDFが手を伸ばしても距離も高さもあるシュートには虚しいだけだった。
「丹下って、バスケ上手かったんだ…?」
「…さすがに漫画読んだだけじゃできないよな?」
…丹下だからなぁ、できちゃいそうな気もする。
ざわざわしだしたギャラリーを尻目に涼しい顔でボールを拾ってる丹下。
スリーポイントだったから、一点うちが勝ってる。
それが彰嗣の闘争心に火をつけたようで、彰嗣が丹下に近づいてって声をかけてる。
周りが煩いのとちょっと距離があるので何を話してるかは聞こえない。
「丹下てば本気じゃん、どうしたの?」
「村地氏相手に適当にやって勝てると思いませんし…杉田氏も観てますし」
「ふーん…じゃあ俺も真智にカッコイイとこ見せないとな、丹下に負けらんないや」
「…お手柔らかに」
「よく言うよ、元名シューターさん」
苦笑いする彰嗣が何かを言って丹下の肩を叩いて離れていく。
その言葉に眉間にしわを寄せた丹下が一瞬俯いて顔を上げる。
ばちっと目が合って、丹下が驚いた顔をする。
俺も驚いてしまったけど、それよりも。
丹下の表情が少し沈んで見えた気がして。
俺はニッと笑って拳を前に突き出す。
すると、横でそれを見た森光が俺の肩に腕を回して同じように拳を突き出して笑った。
それを見た丹下が少し頬を緩めて、珍しくゆるく笑って同じように拳を作った。
それが何か嬉しくて森光の肩をバシバシ叩くと痛かったのか握り潰さんばかりに肩を掴まれた、めちゃくちゃ痛い。
貴重な丹下の笑顔が見れたのでテンションが上がってしまったのだ、許せ。
そして運良く丹下の笑顔を見た女子が同じように隣の子を叩いてるのを見て恥ずかしくなった、俺ってば女子か。
「まだ開始して2分とかだろ?」
「前後半10分ずつだって、丹下死なないかな」
「…あのシュート見たら平気そうだけどな」
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