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何だか手に馴染まなくてドキドキして。
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深呼吸を数回。
ドアに手を伸ばして、ぐっと飲み込んだ息をそのままにノブを回す。
カラン、といつもの音がして心地いい男性の声とジャズの音色。
ゆったりとした空気が少しだけ気持ちを落ち着けてくれた。
「やぁ、いらっしゃい」
一人で来るなんて珍しいね、と笑うマスター。
金獅子のお父さん。
似てる目もと、時々してくれる金獅子の柔らかい笑みを思い出す。
ほんの数日会ってないだけなのに全然会ってないような気がする。
おじさんを前にしたら尚更。
「こんにちは…あの、息子さんいますか?」
「うん?今日は学校行ってるけど…会わなかったのかな?」
「えぇ…はい、ずっと会ってません」
「ずっと?可笑しいね、学校には毎日行ってるはずだけど」
「来てます、あいつちゃんと…でも、会えないんです」
会えない、避けられてる
その言葉が頭を巡る。
会いたいのに会えなくて、どうしてだろうって。
モヤモヤして何かもうよくわからない。
どうしたらいいんだろう。
そんな気持ちが表に出てたんだろう。
おじさんは苦笑いして、拭いてたコップを下すとカウンター席の一つに座るように促す。
おずおずと座る俺に飲み物を出して、自分にもコーヒーを入れて隣のスツールに座った。
「真智君」
「はい」
「真智君は小さい頃は泣き虫で甘えん坊だったって言ってたよね」
「??はい、よく母さんにくっついててコアラだって言われてました」
「ふふ、そう話してたね…でも、幼稚園の時はしっかり者で面倒見のいい子だったね」
その頃を知っているような言い方だった。
不思議に思いながらおじさんを見れば困ったように笑って、それからすっと俺の頭を撫でた。
優しく、包み込むように頭を滑る手が何だか懐かしく感じる。
「…あの子が何も言ってないなら、俺からは何も言えないね」
苦笑いを深くしながら、帰りに夕飯食べにここに寄るから待ってればいいと言ってくれた。
先の言葉が気に掛かるけれど、問いかける言葉がなくて。
待たせてもらえることにお礼を言うしかできなかった。
静かに時間が流れる。
焦れったい気持ちが溢れ出そうで誤魔化すようにスマホを手に取っては宛もなく弄ってみるけれど。
結局何もしないで画面を落とす。
それを繰り返しては苛立ちを募らせる。
カラン、とドアが開いては反応して違うお客さんだと溜め息を吐いた。
時折くる森光からのメッセージを読んでみるけれど頭に入らない。
そういえば、何で金獅子の連絡先を知らないんだろう。
聞くタイミングなんてたくさんあったのに。
必要なかった、といえばそれまでだけど。
「…いるのが当たり前すぎてたんだな」
一緒にいるようになってそんなに長いわけじゃないのに。
探すことなんて俺からはなかった。
いつも金獅子が俺の傍に来てくれてた。
俺は金獅子の与えてくれる居心地の良さに勝手に浸っていたわけだ。
ずいぶんと甘やかされてる。
何で、そこまでしてくれるのか。
考えると疑問は尽きない。
もどかしい、じれったい、苛々する。
カラン、と鳴るベル。
間接照明に照らされたいつもより濃い色の金髪。
影を大きく作る長身、気だるげな長い足。
「…遅ぇんだよ、馬鹿」
俺の声に動揺を見せる綺麗な碧眼。
やっと会えた。
低い声の割には顔が安堵に歪んだ。
さぁ、話をしよう。
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