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☆或る猫の性格について
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「最近、やけにマンクが大きく感じる…」
幼少の頃に出会ってから、人間で言えば十六程の齢、マンカストラップは順調に強く逞しくなっていた。それに反し、ラム・タム・タガーはあまり変化もなく、面倒なことも中々家に戻らないこともあり、重い金髪はやや長くなっていた。そのために見た目は中性的で、無論この後の数年で見事な成長を遂げることなど彼らはつゆ知らず、互いの差について考え始めていた。
「前までは全く同じくらいの背丈だったのになあ」
ランパスキャットは頬づえをつきながら微笑を湛えて二人を見やる。彼から見れば二人は未だ仔猫のままであった。背の高い彼だが、マンカストラップとほぼ同じと言っていい程に彼の背は伸びている。頭一つ分程の差で幼い頃の活発さよりも健剛さを感じさせるマンカストラップを、切れ長の目でラム・タム・タガーは見上げた。悔しさでも憎さでもない、どこか悲壮感のある思いがその胸を巣喰い、軽く顔を俯ける。マンカストラップはそれに気がつくと、唯一変わらぬ優しげな目尻でラム・タム・タガーを見詰めた。中々不器用で人の気持ちを察することも未熟であるために、よく観察せねばと思ったのもその要因である。
そうした日々の内、ラム・タム・タガーの性格を一変させるような出来事が起こった。それはマンカストラップの発情期であり、彼も初めて目にするものであった。常に喉を唸らせているようにすら感じられる目付きが一等彼らしく思えず、気がつけば近寄りがたいように感じていた。幸い彼は忍耐強く、雌猫を蹴散らすようなことはしなかった。ただ、それにもやはり、限度というものはあった。
「辛そうだね」
常にせわしなく動くジェリクルの次期リーダーにランパスキャットは見守るような目つきでそう話しかけた。マンカストラップはランパスキャットを見上げると、しばらく目を泳がせてから軽く逆立つ毛を撫で付けるようにしてから一つ問うた。
「…タガーは…どこにいるか、わかる」
「ん?タガーねえ、多分…」
ここしばらくのマンカストラップが話すことは珍しかった。口を開けば大概、大丈夫、の一点張りであったため、彼の方から何か話したことにランパスキャットは軽く驚いた。おそらく君とは対照的なところにいるだろう、と誰もが知っているような曖昧な答えを返すと、それに怒るでもなく、ああ、と呟いてどこかへとマンカストラップは去っていった。
「…多分……」
マンカストラップはいつも彼が居たごみ溜めの一角へと向かった。人気は少ないものの、何故かそこは避けるようにしていたため、裏をかけば今の彼の対照的なところというのはおそらくそこであった。
「!」
小さく物音がした。程よい広さの土管を覗くと、そこには確かに見慣れた姿があった。
「タガー、」
「うわ、なんで、お前」
声変わりもままならない声を上げ、ラム・タム・タガーは更に奥へ逃げようと試みた。しかし、どちらにせよ行き止まりと二人に生じた力量の差とでそれは不可能だと悟った。
「なんで…避けてた」
マンカストラップは出入り口を塞ぐように立ち上がると、ラム・タム・タガーへと問うた。彼は何も答えられず、ただ一つその目つきを見詰めては肩を竦ませた。
「…怖い?」
「っ、」
ついにマンカストラップが土管の中へと侵入する。ラム・タム・タガーは後退りし、とうとう目の前に灰の目を捉えると諦めたように壁にもたれかかった。彼自身もわからぬ恐怖に怯え、しかしその目を見詰めて離せずにいる。
「…なあ」
「な、に…」
「まず、俺は…卑怯者だ、」
「…?」
ラム・タム・タガーの目の前に立ちふさがるようにするマンカストラップは一言そう呟いた。彼はラム・タム・タガーの性格をよく理解していた。良しとは言えても否とは中々言い出せないこと、行動でそれが示されても抵抗が虚しいこと。
「…すまない」
「な、んだよ…謝るなら、出させて…」
「それは…うん…できない…我儘だ、俺の」
小刻みに震えるラム・タム・タガーの首筋にマンカストラップは額を軽く当て、それから牙を首輪に引っ掛けて上にずらす。抵抗しないわけではなく、できないことを重々理解しながらそこに尖った歯を埋め込めば、ラム・タム・タガーは唸りと共に涙を滲ませた。それはおそらく痛みからのものではないのだが、最早彼自身、状況に思考が追いつかず、ただ混乱と恐怖に怯えているのみであった。
「なんで、俺、男だ……」
「…うん、何でだろう…」
泣き出し始めたラム・タム・タガーの頬をマンカストラップは一つ舐め、大きめのファーの付いたジャケットを脱がす。あまり人目に触れぬ格好で、彼よりもずっと細い肢体が網膜に焼き付いた。それから、彼自身無意識のうちにその細い手首を押さえ付け、最低な行為に及ぼうとしていた。強かな体にラム・タム・タガーは蹴りを入れようと試みるが、やはり今の彼では到底かなわぬようで、無理矢理に口腔に割り入った舌と舌が触れた。
「っ、ぅぐ…」
「…あんまり、いいものでもない…」
ざらりとしたそれで一掻きし、舌を抜いてからマンカストラップは呟いた。勿論ラム・タム・タガーは言いたいことが山ほどあったが、ただ自利的な行動に出る友人を眺めることが今の精一杯である。次にマンカストラップは彼のひたりと肌に着く服と体の隙間に指を入れ、勢いもよく剥ぎ取った。最早羞恥など圏外のものだと思われていたが、いよいよそこが露わにされては彼も一瞬蒼ざめ、それから急激に体温を上げた。それを視覚的に受け取ったマンカストラップは緩く口角を上げ、暴れる脚を組み敷いてからその中心には何もせず、後孔に指を当てた。爪があるため怪我をさせてしまうかもしれないという心配は彼にはすでに残っておらず、もう本能が全てであった。
「い、やだ、っぅ…」
ラム・タム・タガーは声を上げたものの、先程無理矢理に接吻とも言い難いような口吸いをされたため、その焼けが込み上げ唯一自由の効く片手で口元を覆った。それから一瞬間冷静になり、それがすぐ後に混乱が押し寄せる予兆とも理解していたが、今彼が抵抗してしまえばマンカストラップのこの欲は誰へ向かうとかと思考をよぎらせ、遂に全身の力を抜いてしまった。
諦めを覚えたラム・タム・タガーを他所に、マンカストラップの指先は如何にして挿入しようかと目論んでいた。平静を崩した彼は潤滑油という概念を思い出すのにしばらくかかり、ふとそれを思いついてから指先を舐めた。
「…本当に……」
耳をすっかり俯かせたラム・タム・タガーはそれだけ呟き、滑った指が空気に触れて冷え、それが後孔に触れたことを感じた。痛くはないようにと深呼吸をするが、恐怖から息は浅く中々肺に空気は溜まらなかった。目の前のマンカストラップの体温が非道く熱く感じ、視界が歪む。
「タガー…」
「…」
「かわいいな…」
「……」
指先は遂に埋められ、全く経験のない体はそれに抵抗したが、それも次第に蕩かされていった。今度は優しく、マンカストラップはラム・タム・タガーの髪やら耳に口付けを落とし、謝罪と慈愛の言葉を零したもののやはり現実に変わりはなかった。
「…なんで」
「?」
嗚咽を漏らさぬよう息を整えながらラム・タム・タガーは呟く。マンカストラップは顔を上げ、未だ快楽を感じてはいないらしい彼を見詰める。
「なんで、無駄に優しく……」
「…」
どこまでも体を酷使されることを覚悟していた彼は、必死ではあるが彼に愛情を示すマンカストラップに疑念を抱いた。指は独りだけで中で蠢き、どうにか体液が滴るのを待つ。ついにそれが与えられれば、自由を手にし、反復させたりしてそこを柔くしようと試みていた。しかしラム・タム・タガーの自身は首をもたげたままであった。
「…タガー」
「なに…」
「自分で、やってくれないか…」
「は?」
目の前の獲物が逃げないと強く確かめたマンカストラップは落ち着いた口調になり、ラム・タム・タガーの手を取り彼の中は食い込む指のある手首を掴ませた。抜くことも勝手であり、逃げてしまうことも勿論させるつもりでいたが、やはり彼はそのような行動を取らず、掴まされた手首をくいと曲げたりだとかし、自らの快楽を探った。マンカストラップは腕の動きに合わせ、指を曲げたりさせた。彼なりの、好く人を楽にさせてやる方法であった。
「っ、ぅあ…っ、は、」
「…ここ」
「っぐ…ぅ…」
「…よかった…」
マンカストラップは腹の方の一部分を撫でてやると、ラム・タム・タガーが緑の瞳を蕩けさせることを知った。手首を掴んでいた掌は次第に熱く、弱くなり、ついにそこを離れ、地面へと着地した。腰を震わせる彼の自身は緩く勃ち上がり、透明な液をほたほたと垂らしている。ようやく目的を果たせたマンカストラップは指を増やし、そこをひたすらに柔くさせた。彼自身、最早限界が訪れかけていたのだった。
「っ、っあ、う……」
「…気持ちいいか?」
「ん、っは、ふ…」
通常感じ得ないところによって、常に達しているような感覚を与えられていたラム・タム・タガーはようやくマンカストラップの問いを聞き取り、そして体全体を震わせながら幾度か浅く頷いた。しかし虚偽ではないものの、彼は未だかつて快楽というものを体験した試しがなかったために、おそらく腹の奥が重く波打つのがそれなのだろうと捉えた。実際、一見苦しそうに見えるものの、自身は熱く震え、腰は軽く揺れ動いている。その本能的な部分にマンカストラップは舌舐めずりをし、粘液に塗れた指を抜いた。それから履物を下ろし、ラム・タム・タガーよりも幾分と成長した自身を現し、それにラム・タム・タガーは軽く竦んだ。
「…本当に…すまない…」
「……も、いいよ…挿れろよ……」
「……」
二人は上半身を近づけ、マンカストラップはラム・タム・タガーの息が乱れていることをよく実感してから緩んだ後孔に自身の鋒を含ませた。ラム・タム・タガーは声を抑えるが、口腔に指を入れられ、それから深く口吸いをされた。今度のものは互いに興奮しているからか、心地のいいものであった。そうして蕩けた口元と瞳からはそれぞれ唾液と涙が零れ、最早思考を放棄し始めた彼は軽く天井を仰いだ。
「んあ、ぁ、は、う……」
「…あと、少し、だけ」
「っふ、も…むり……」
ラム・タム・タガーは無意識に自らの腹に手を当てる。そこには今の犯されているという事実があり、それに快感を覚えている自分の姿もあった。それを一緒くたにした熱は余計に接合部を溶かし、好意を罪深いものへと昇華させる。マンカストラップはついに最後まで自身を食わせ、ラム・タム・タガーにしがみつかれていた。勿論落下などの危険があるわけでもなく、ただ成長中の体に有り余る力がマンカストラップの背に傷をつけた。
「っ…く、は……っん…」
「…苦しいか…そうだよなあ……」
マンカストラップは慈愛の色を灰の目に浮かべ、緩く律動を始めた。押さえ付けていた手は互いに指を絡め合うような握り方になり、狭い土管の中には定期的な水音と雄とは思えぬ高く甘いあえぎが響く。自分から発せられたそれがラム・タム・タガーの耳に還り、耳からも脳を溶かしてしまうように彼には思えた。そして、体全てを目の前の加害者に預け、腰を一つ大きく震わす。
「っんぁ、っは、はひ……」
「いった…か…?」
「っぁ…あ……ぅ……」
マンカストラップとラム・タム・タガーの腹に纏わり付いた精液は濃く、彼がそこまで性に拘らないことを示していた。マンカストラップはそれを爪の先で掬うと、口に含んでしばらく転がすように味わう。勿論不味いものではあるのだが、目の前で蕩けきった者の一部であったと考えると、雑味の中にそれだけではない何かを感じた。ラム・タム・タガーはすっかり四肢の力を抜き、それを時折痙攣させる。意識が僅かながらもあることを確認すると、マンカストラップは息を吐き、激しく腰を打ち付けた。
「っあ"、くぁ、ぁ…!」
「っ、すま、ない!」
「ぅ、ゔう……!っは、あ、ぁぐ……」
「辛いな、そうだな…!」
がくがくと震える腰を片手で押さえ付け、より最奥へとマンカストラップは押し進む。焼けてしまいそうな腹を、途切れ途切れの意識で感じ取ったラム・タム・タガーは既に細かく達し、体を伝って聞こえるような最奥を突く音を聞いていた。痛くはなく、ただ酸欠と快楽で廃人へと堕とされる感覚を覚え、それを一等心地よく思う自身が恐ろしくも感じていた。しかしそう思うにも最早思考は錆つき、気持ちがいい、という概念だけが今の縋れるところであった。
「たが、っ、タガー!」
「ひあ、っあ、ぇ…?」
「もう、で、る…から…」
「っん、ぁ、っふ、んん………!」
マンカストラップはそう告げたものの、最後に一際深く打ち付け、逃れられぬようラム・タム・タガーの濡れた唇を食むようにして接吻した。腹の中の確かな存在を感じ、彼も背を反らせてしなやかに達した。一等後孔は締め付けられ、マンカストラップの欲を余すことなく受け止めた。出し切った後もしばらく余韻に浸り、ラム・タム・タガーを睡魔が襲い始めた頃、マンカストラップは自身を引き抜いた。中からは粘液と混じった精液が溢れ、そこは絶えずひくりと疼いていた。疲労によりすぐさま眠りに落ちたラム・タム・タガーは、目を覚ました時に体に酷い激痛を覚えた。しかし後孔から溢れるものはなく、どうやらマンカストラップが片付けてくれたらしい。ただこびり付いた雌の匂いは取れていないようであった。
「…何だったんだろうな…」
枯れきった声で呟き、いつもの寝床から顔を出す。流石に普段のようには振る舞えないため、ここに籠るしかないだろうと思っている時、彼は目ざとく寝床の前で眠る猫の姿を見た。
「マンク…?」
「ん、ぁ…」
名を呼べば彼はいつものように目を開き、あの目つきでラム・タム・タガーを捉える。そうして、それはすぐさま見開き、距離を保ったまま勢いよく叫んだ。
「き、昨日は、本当にすまなかった!」
ラム・タム・タガーは自分にもたらされた変化を再確認し、マンカストラップの方を見詰めた。彼は酷く狼狽したような表情を浮かべている。ラム・タム・タガーは昨日にして幼い頃からの友人の想いを全て受け止めた。しかし、やはり彼の言葉には答えられそうになかった。
「ああ…いや、お前も大変だったろう…」
「……」
「うん、だから…このことはなかったことに、しよう」
「…いいのか、罪なり、罰なり、俺に…」
マンカストラップの耳は完全に垂れていた。彼は正義感が強いがために、自己責務も全てが重い傾向にあったとラム・タム・タガーは思い起こす。
「…いいよ、だがな、俺はなかったことにはするが、忘れはしない」
「…」
「お前の言ったことを覚えてやらなかったら二の轍を踏むだろ?」
「…じゃあ…」
「けれどもだ、俺は、お前と恋仲なんて真っ平御免だぞ!」
ラム・タム・タガーは、彼にしては珍しくしっかりと言葉を濁らせずに分別をつけた。これにはマンカストラップも驚いたが、その一瞬後にはそれは微笑みの種になっていた。
「…ふ」
「何がおかしい」
「タガーがしっかりと物言いできるようになったんだなあと…」
「…そうだな…うん……」
ラム・タム・タガーは俯き、それから寝床へと倒れた。まだまだ眠く、だがそれ以上に昨日で自分が全く変わってしまったことを理解していた。正直、彼はマンカストラップに恐怖を抱いた。しかし、それを受け止めたせいで自分の何かが変わったことも確かであった。自己主張と分別をつけることの重要さを知らされ、彼の中の精神は新たなものへと切り替わった。それは確かに恐怖の上に重なった層であり、それを掘り返さないようにと今もなお、日々強がりを続けているのだ。
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