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A Winter's Tale
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眩しい光の中でロジャーを探す。
「ロジャー!どこだ?」
”ブライアン!俺はここだ。”
「ロジャー私はここにいるよ。」
”ブライアン!”
差出されるロジャーの手をしっかり握った。まばゆく輝く永遠の光の中で、、、。
真っ白な世界、、、真っ白な、、、、天井?
「やあ、気分はどうだい?」
ここは地獄だ。世界で一番会いたくない人間に会わなければならない地獄。
「僕をまんまと出し抜いたつもりだろうけど、そう上手くはいかさないよ。君には30年分の恨みがあるからね。」
その男は私の傍らのパイプ椅子に座って銀色の小瓶を口に持って行った。
「君にしては上手くやったよ。
カートを1台隠して置いてみんなに森に行ったと思わせたまではよかった。
みんな森の池だと思って探し回っていたからね。でもジェイムズが犬を放したんだ。君がやったそうじゃないか?以前ロジャーが居なくなった時に。そうしたら犬たちは見事に君達を探し当てたよ。
君は凍死寸前だったが。何が何でも君を死なせたくなくて君を抱えて走ったんだぜ。 ははははははははははは。」
「、、、、、悪魔め、、、。」
「ははは、ああおかしい、君のその悔しそうな顔を見られただけでもこの30年間生き抜いた甲斐があるってもんだよ。」
誰かが入ってくる様な気配がして、もう一人がジョンの横に立った。
「Drレイ、、、気分はいかがですか?」
誰だったか?思い出せない、懐かしい顔ではあるのだが。誰にも会いたくない。
ロジャーは私に復讐をしているのだ。彼を何度も死の淵から助け出したと思った。
しかし、死にたがっていた彼にとって生還して目が覚めた瞬間というのは苦痛以外ではなかったのだ。何より、今自分自身が体験してそれが分かる。
もう一度、、目覚めなければならない、、もう一度人間として立ち上がらなければならないことを強要される。それがどれほどの苦しみと絶望か、、、。私はもう誰とも一言も口を利かなかった。
病院から帰され、棺に納められたロジャーと対面した後。
一人で実家の古い家に戻ってそこに閉じこもった。ロジャーの葬儀にも出なかった。
ウエストサセックスの私の生まれた、両親が住んでいた家。ただルーカスから苦情の電話が何度もかかってくる。
「ブライアン!いったいどれだけのバラの花を注文したの?もう家中どころか、庭も墓もどこもかしこも赤いバラの花だらけだよ。トラックで何台もバラの花が届けられるんだ。毎日毎日!もういい加減にしてくれよ!」
ロンドン中の赤いバラを買い占めてクリスマスまで送り続けろと注文した。
誰かが家を訪れる気配がしたが出なかった。しばらくすると騒々しい音がしてドアが開けられた。ため息をついて、階下に下りると黒いコートを着たジェイムズがトランクを持って立っていた。
「マスター・レイ。お騒がせして申しわけございません。ちゃんと大工を呼んでドアは修理させますので。」
ジェイムズはにっこりと笑って恭しくお辞儀をした。
もう何も反論もしなかった。言っても無駄だと言う事も分かっていたし。
抗議する気力もなかった。彼の好きなようにさせるだけだ。
「こちらを、、預かってまいりました。
ルーカス様より、、、
だんな様のお形見を、お渡しする様に。」
形見?ロジャーの?あの時ロジャーは楽しそうに形見分けを選んでいた。
いつの間に私の分まで、、、。
一度はテーブルの上にほおり投げたが、、、やはり気になって包みを開く。
茶色い堅い包装紙の包みを開けると、、、
古いドラムスティックが2本。
一本のドラムスティックに金色の指輪が嵌っている、、これは、、!
私がロジャーに贈ったサファイアの指輪。
いや、あの指輪はロジャーの指に嵌めたまま埋葬したと聞いている。
しかしデザインはそっくりだ。
私自身がデザインを選んでオーダーしたものだから。よく見ると、サファイアの周りに刻み込まれたバラのモチーフがひとつだけ星の形だ。
指輪を外して私の薬指に入れてみるとピッタリだった。やはりこれはロジャーが私のために新しく作った指輪だろう。
内側に文字が彫ってある。
”忠実な伴侶より永遠に愛を込めて。R”
形見を選んでいたときの彼を思い出す。
”ディディーにはこれを贈ってやろう。
ヤツめこれを受け取って泣け!”
うれしそうに笑っていた。
ロジャー!私がこれを受け取って泣くと思ったか?もう涙は出ないさ。散々泣いて絶望して心が空っぽになってしまった。
だが古ぼけたドラムスティックを見返って、何か金色の文字が書いてあった。
”これは君と初めてスタジオに入った時のスティックだ。
”I will love you even if am reborn”
スティックを握り締めて、膝が崩れた。
もう枯れ果てたと思った熱い涙が湧き上がってくる。ロジャー!君は私を泣かせたいのか?
ジェイムズが私の肩を抱いて立ち上がらせると傍らの椅子に私を座らせて熱いグリーンティーを煎れる。カップはBlackRaku風の茶碗だ。
両手でその茶碗を包み込んだ。
「美味い、、、、!」
体の中に血が流れ出したようにグリーティが私の体に温かみを戻してくれた。
「私も、、、だんな様を亡くして途方にくれていました、、。でも、だんな様がDrレイを支えてくれと、、おっしゃっていただいた言葉を思い出して、、、。」
ジェイムズは跪いて私の手を取った。
「だんな様をどうか忘れずに愛し続けてください。お若い皆様は、、、新しい世界に向かって歩かれます。
皆も新しい仕事や生活に生きて、だんな様は過去になってしまいます。
でも、マスター・レイ!
あなたはだんな様を忘れずに生きていて貰いたいのです。」
ジェイムズの手が温かいと感じた。
「ロジャーを忘れずに、、?
みんなロジャーを忘れるのか?」
「忘れます、そうでないと生きていけないのです。」
私しかいないのか?ロジャーを思い続ける人間が、、、。
「マイマスター・レイ、どうか、だんな様を忘れないでください。」
「忘れるはずが無いだろう。」
日々は過ぎて行く、ロジャーがこの世界からいなくなっても、、変わらずに。
フレディの時もそうだった、父の時も母が亡くなった時も世界はいつもどおりに動いて何も変わらなかった。せめてイギリスから赤いバラの花が無くなって、サリーの一部に集中して集まる現象が起きる位の事があってもいいだろう。
ルーカスはサリー州の病院や教会、介護施設などにバラの花を分け与えて回っているそうだがそれでも追いつかないくらい花は届けられ続けたが、ついに花屋から悲鳴が上がった。
クリスマスシーズンの忙しい時に赤いバラをすべて集める事が無理になったらしい。しぶしぶ私は小型トラック一台分だけと言う縮小案に了解した。
私とジェイムズの二人の生活も続いた。
もともとジェイムズは私達とモントルーに同行する予定だったので屋敷の東翼を取り仕切る仕事をメイド頭とファーストフットマンの二人に任せる準備をしていた。
古いウエストエセックスの二階建ての家で、ジェイムズはてきぱきと働いた。
おそらくモントルーに行っていても彼は同じように一人でそつなく家事をすべてをこなしていただろう。
ロジャーが居ない事だけが、私たちの間に欠けたピースだった。
それでも外の世界はクリスマスに向かって華やいだ雰囲気で溢れていく。いつも冷静なジェイムズがそわそわしていた。
「ジェイムズ、クリスマスくらいは家族と会って来たらいい。私のことは気にするな。」
私はいっそ一人のほうが気楽でいい。
「いえ、マスター・レイ私も家族はおりませんので、、、ただ、、。」
ドアをノックする音が聞こえた。
私が何か言う前にジェイムズがドアに飛びついて開けた。
そこには、、、見慣れた二人、、
だけどいつもとは違う私服の男女が立っていた。
「メリークリスマス、Drレイ。そしてジェイムズさん。」
ハリソンとコナー。
ハリソンのボサボサ頭と無精ひげは変わらないがコナーは今日は化粧をして髪をセットして美しく装っていた。
「いらっしゃいませ。
お待ちしておりました。」
「ジェイムズさん、久しぶりです。」
コナーが軽く抱擁してジェイムズとの再会を喜んでいた。
「Drレイ。」
寡黙で愛想笑いもしないハリソン、、数日ぶりなのだが懐かしい。
二人をリビングの奥の応接用のソファに案内した。ロジャーの屋敷に比べたらはるかに簡素な家だ。
「今日は、お二人に報告をしたくて、、、。」
コナーが頬を高潮させて語りかけた。
「僕たち、結婚しました。」
「おお、、!。」
ジェイムズが思わず感嘆の声を上げた。
「それはおめでとう。
よかったな、ハリソン。」
私はせいぜい陰鬱に聞こえないように言った。ハリソンは正式に結婚したがったがコナーが拒否していると言っていた。
「MrセイラーとDrレイのおかげです。」
私たちが何をした?せいぜいロジャーの看護で君たちのデートの時間が増えただけだろう。ハリソンとコナーは顔を見合わせた。いい加減にしろと言いたい。恋人たちだ。
「私は正式な結婚は必要ないと思っていました。結婚は女性を妻と言う地位に縛付ける悪しき慣習だと考えていました。
でも、、、DrレイとMrセイラーの真摯な愛の姿を見て、結婚の概念が変わりました。」
「じいさん二人の老いらくの恋を目の当たりにして、何か感じる所があったかい?」
まるでジョンが乗り移った様な言葉が自分の口から出てくる。
かなり根性がひねくれて来たようだ。
いよいよ本格的なくそじじいだ。
「お二人は見ているのも恥ずかしいくらいの純愛でした。」
「言ってくれるね。」
「でもとてもお互いを大切にしあっていて、、DrレイがMrセイラーに対して求めた結婚とはお互いに束縛することではなくて、自立しあっていながら相手を尊重し、伴侶と呼び合うことで心の繋がりをより強くすることだと感じました。
それが結婚と言う事であるならば私も彼とそう言う関係でありたいと願いました。」
コナーはハリソンを見上げながら晴々と言い放った。ハリソンは無表情を装いきれずに照れていた。
「年が明けたら彼女はジャパンに1年間の研修に出るのです。」
「君も一緒ではないのか?」
私はコナーとハリソンが一緒に研修に行ける様に取り計らったつもりだったが。
「僕は彼女の後に行きます。
病院にはコナーと同輩の先輩がいますので彼が先に。」
「では離れ離れになってしまうのではないか?それでいいのか?」
「大丈夫です。」
彼らは本当にそう思っている様だった。
コナーは結婚式の時の画像を見せてくれた、シンプルな白のドレスに銀の髪飾りをつけただけのコナーだが十分美しかった。
さすがにハリソンは無精ひげを剃っていたが、印象はあまり変わらなかった。
「この髪飾りは、、、。」
銀色の細かな細工のゆれるピラピラのついたこれは、、。
「はい、Drレイからもらったジャパンのお土産です。
とてもきれいで、、感激しました。」
ハリソンには舞扇や組紐等を土産にしたらいい。とアドバイスをしたが銀の髪飾りはまさしく彼女の結婚式にふさわしい、と思って私が選んだものだった。
今夜のミサのチャリティライヴを楽しみにしています。
と二人は早々に辞去して行った。
「チャリティライヴ、、、、。」
まだやるつもりなのか?私は行く気はない。
ほっておいてもルーカスやジョンの息子たちが特別にバンドを組んで毎年演奏しているそうだから問題はないだろう。
書斎にしている父の部屋に戻るとまもなくまた来客の気配がする。
クリスマスなのに、みんな家で祝っていればいいのに。
ジェイムズが何も言ってこないので自分の仕事を続ける。
私はロジャーの形見を受け取って、いよいよ腹を括った。
世間に私たちの関係を暴露する本を書くことにしたのだ。表向き建前にした自伝を書く。と言う作業を実際に行うことになってしまった。
幸いと言うか、ビクトリア朝の古い屋敷を改築工事するために倉庫などに家具や荷物を預けたが私が書いた日記や書付、作曲したノートなどプライベートなものはこの古い実家に持ち込んでいた。倉庫に預けた荷物は何かがあれば一般の目にさらされる機会があるかもしれないが、実家においてある荷物は私が死後も家族以外は目にすることもないだろう。と思っての処置だった。
もちろん、私の死後は速やかに焼却するべし。と書付を添えてある。
古い日記を見ていると懐かしい思い出が次々と思い出される。
若かったロジャーとの日々。フレディやジョンと出会った時のことも細かく綴っていた。 夕刻になってまた誰か来た様だ、今度は階段を上ってくる足音が聞こえる。ノックもなくドアが開いた。
「やあ、隠居じいさん景気はどうだい?」
ディディー、、、生きていたのか?
振り返って騒々しいこの男のペースに乗りたくない。
「おいおい、無視かよ。今夜はクリスマス・イヴだぜ、
さあ迎えに来たぞ。立ち上がって出かけるんだ。」
出かける?いったいどこへ?
「うるさいな。出て行ってくれ。」
「出て行ってやるよ。
あんたも一緒にな。さあ来い!」
「何をするんだ!?」
怒って怒鳴るがディディーはまったくかまわずに私の肩をつかんで階段を下りて行く。
「ディディー!やめろ!私はここを動く気はない。ほって置いてくれ!」
「ジェイムズ、コートを出してくれ。
服は、、、」
「大丈夫よ、ブラックスーツを持って来たわ。」
「アリサ!」
なぜアリサがここにいる。
「楽器は?」
服や楽器がどうしたと言うのだ、
なぜみんなここにいるのだ。
「大丈夫だ、向こうになんでも用意してあるそうだ。」
ジョンまで居るじゃないか?
いったいどうなっているんだ?
「ジェイムズ行くぞ、火の始末はしたか?」
「はい、大丈夫でございます。」
ジェイムズまで、、、!グルなのか?
いったい、、、これは、、、!?
訳の分からないうちに表のリムジンに押しこまれて出発した。
わいわいと大所帯で見まわすと後ろにもう一台リムジンが居て、どうやらクリスティたち家族が乗っている様だ。返せ、降ろせと騒いでいる間に車は教会と思しき建物の前で停車した。
「ここは、、、?」
ケンジントンマーケットに程近い小さな教会だった。
昔、レジーナが売り出し始めの時に何度もチャリティライヴをやった。
ここ数年、ロジャーとジョンがミサでのチャリティのライヴをやっていたのはいつもゲリラライヴで、毎年始まってみないとどこで行うか分からない。今年はここで、、、?
「待て!私は何もやる気はないぞ!」
まあまあまあ、いいから入って入って。
と教会に連れ込まれる。
中にはルーカスが他の若いメンバーとリハーサルをしていた、彼らは毎年クリスマスだけに結成する特別なメンバーでジョンの息子や他のミュージシャンも居るようだが私には分からない。
「ブライアン!やあ、来てくれたね。
あのバラさあ、もう大変だよ。」
「ルーカス、私は演奏など何もできないぞ。ギターも、、、触ってもいない。」
「OKだってブライアン、代役のシンガーはパパが用意しているって言ってたけど、、、?知ってる?」
知らない。代役のシンガー?ルーカスが歌うのだと思っていた。
「あ、なんだい?リトル・レオ。」
見るとルーカスの足にあの子が捉まっている。
「パパ、、、、、ブライアン、、、、
モヤモヤ。」
ルーカスは彼を抱き上げた。
今までこの子は私を見ると逃げ出していた。今日は逃げない。
どうやら5歳の子供にも怖がられないほどに私は萎れてしまったらしい。
「ブライアンだよ。何だって?レオ。」
「ブライアン、今日はきらきらしてない、、、。モヤモヤ。」
リトル・レオは私をじっと見つめた。ルーカスは仲間に呼ばれている。
「困ったな、今日はこの子の妹が熱を出しちゃって、、ママが来ていないんだ。グラン・マ・レビーを当てにしていたんだけど、、逃げられちゃって、、、
ブライアンちょっと頼める?」
ルーカスは抱いていた子供を私の手に押し付けた。
「えっ?いや、ちょっと待て。」
しかしルーカスはさっさと仲間の方に行ってしまった。
「え?」
そうだジェイムズは、、まだ彼の方が慣れているはず、、。周りを見回したがジェイムズの姿も見えない。焦って腕の中の小さなぬくもりを見た。
「ブライアン、、、モヤモヤ、、。」
「なんだい?何がモヤモヤかい?
この髪の毛かい?」
彼は私の腕の中を嫌がりもせずに大人しく抱かれている。
「おやおや、、、かわいい子供だね。
この子が君の新しい息子かい。
ふふふ、リトル・レオ元気かい?」
ジョンは慣れた様子で声をかけた。
「ハイ、ジョン。メリークリスマス。」
「メリークリスマス、レオ。
キスしてくれるかな?」
「いいよ。」
なんとリトル・レオはジョンの頬にキスをした。
「仲がいいじゃないか?それなら君がこの子の面倒を見たまえ。」
レオを押し付けようとすると
「生憎リウマチが痛くてね、、。」
と拒否する。
「何がリウマチだ、家でも畑とひ孫の世話をしているんだろう!」
「いやいや、君の養子だろう。」
と押し付けあっているとやっとジェイムズがやって来た。
「これはこれはライオネルお坊ちゃま、
今日はレイお父上様と仲良しでいらっしゃいますね。」
ジェイムズがやって来ても彼は私の腕から離れなかった。
「今日は歌うの。」
「歌、、、?
何の歌をお歌いになるのですか?
ルーカスパパのバンドでですか?」
ジェイムズが気を遣って彼を引き取ろうとしたが、いやいやをして私にしがみついて来る。
「エレンの歌を歌うの。グラン・パの代わりに。
ブライアンとジョンと。」
思わずその場にいた3人は顔を見合わせた。
「なんだと、、、彼が代役のシンガー?
聞いていたか?ジョン?」
「いや、、僕も初耳だ。。」
ジェイムズが私に椅子を勧めてくれて座った。リトル・レオは私の膝の上でジェイムズからミルクをもらって飲み始めた。
「ジェイムズ、僕にシャンパンをくれないか?この子守の爺さんにも何か飲ませてやってくれ。」
ジョンは人を子守ジジイ呼ばわりした。しかし、、、いつの間に、、
いやそう言えばよくロジャーとこの子は部屋でピアノを弾いていた。
それに毎日の様に散歩して一緒に過ごしていた。あの時に歌を教えたのか?
「いいじゃないか?こんな小さな子供が歌うんだ、みんなそのつもりで聞いてくれるさ。 僕たちだってポンコツなんだ、大した演奏もできないし。
ちょうどいいんじゃないか?」
ジョンは気楽そうに言った。
「私は演奏するなんて、、、。」
そんなつもりは毛頭なかった、ロジャーとジョンと数回は練習した。しかし、最後の方はロジャーはまともに声も出なかったし切れ切れにピアノを弾いていたくらいだ。
「君が言い出したことだぜ。ロジャーはしっかり代役のシンガーまで用意してくれたんだ。最後まで遣り通せよ。」
そう言われれば返す言葉もない。ディディーがやって来た。ドミニクとアリサも一緒だ。
「そろそろ始まるみたいだな、
俺はブースで撮影してるから。
まあ気楽にやれよ。」
「ハイ、リトル・レオ今日はブライアンと仲良しね。グラン・マ達は向こうにいるけど、ここで大丈夫?」
ドミニクが言ったが、彼は首を振って大丈夫とやはり私の元にとどまった。
いっそ彼がむずがって歌えない。
とか言ってくれたらそれで止められるのに。しかし、日が暮れてクリスマス・イヴが始まると教会の鐘が鳴りミサが始まった。
神父の祈りの言葉、聖歌隊の合唱、人々の感謝の祈りがすむと神父が今夜のミサの特別ライヴを告げ、観衆はどよめいて盛り上がった。ルーカスと仲間達のクリスマスロックンロールメドレーライヴ演奏の幕が開いた。ローカルテレビ局なども来ている様だ。会場は盛り上がっている。
本当にここでロジャーの死を公表するのだろうか?とりあえず、ギターのチューニングをした。小さな子供なのでアコースティックでいいだろう。
「ラストはブルースでね。」
リトル・レオは私とジョンを振り返って人差し指を立てて指示をして来た。
「ブルースでね。」
ジョンはしたり顔で頷いてみせる。
「僕が、こうやって右手を出したらピタって止めて、、、上に振り上げて手をぐるぐる回したらエンディングロールしてね。」
かわいく手を振り回してポーズを決める様が楽しくてつい笑いながら
「ラジャー!ボス。」
と言ってしまう。
リトル・レオは満足そうに頷いてポケットから真っ黒なサングラスを取り出した。
「それをかけるのかい?」
ジョンはクスクス笑いながらレオを撮影した。すると会場が一瞬静かになった。
ルーカスがクリスマスの挨拶をして観客に感謝を述べている。
「ここで、みなさんにお知らせがあります。」
思わず息を呑む、、、、。
ルーカスは今日、ここで演奏する予定だった、父であるロジャー・セイラーが肺ガンのために先週亡くなった事を告げた。
ザワザワとどよめきが広がって行く。テレビ局関係は騒いでいるようだ。
「父はクリスマスにみなさんが神に感謝を捧げる日を楽しんでもらいたいと心から願い。 今日のため友人達と演奏の準備をして来ましたが、残念ながら果たせませんでした。しかし父の遺志は友人でありパートナーであるブライアンとジョンによって受け継がれています。今日は特別に一曲だけですが、彼らの演奏をお聞きください。」
まだまだ続くざわつきと、まばらな拍手の中をルーカスに紹介されて、ステージになっている中央の祭壇の前に出て行った。
リトル・レオは手を引かれて自分で歩いて行く。白髪とはげ頭の老人と金髪の5歳児と言う奇妙なトリオに会場は俄かにざわめく。
会場は若者が多く、30年以上昔に活動したロックバンドの成れの果ての老人など興味はないだろう。ただ、年配の者ももいるらしく私たちを指差して何やら言っている。
ヒューヒューと囃し立てる者もいて会場は再びざわめきを取り戻して来た。
私とジョンは椅子に腰掛てスタンバイをする。ルーカスがリトル・レオのためにマイクスタンドの高さを調整して、どうやら彼がヴォーカルなのだとみんな分かったようだ。彼はさらにマイクの位置を自分で微調整すると私たちを振り返って頷いた。
「are you OK?」
「I'm OK!」
親指を立ててみせる。
まずはギターのアルペジオからのイントロだ。
8小説のメロディが流れると、、、。
Ave Maria!
突然、信じられない程の美しい歌声!
一瞬で教会の中は静まり返り、
リトル・レオの歌声が教会に響き渡った。
Jungfrau mild,
Erhore einer Jungfrau Flehen,
Aus diesem Felsen starr und wild
Soll mein Gebet zu dir hinwehen.
アヴェマリア!心優しき乙女よ、
一人の無垢な娘の願いをお聞き入れ下さい、
この固く荒々しい岩壁の中から
私の祈りが貴女のもとへ届きますように。
5歳児とは思えないほどの声量!
美しいボーイソプラノ。
教会はリトル・レオの歌声で満たされた。
誰もが、小さな5歳児の歌声に聞き入っていた。
ルーカスが唖然として目を剥いていたから彼も初めて聞いたようだ。
Wir schlafen sicher bis zum Morgen,
Ob Menschen noch so grausam sind.
O Jungfrau, sieh der Jungfrau Sorgen,
O Mutter, hor ein bittend Kind!
Ave Maria!Ave Maria!
私たちは朝まで安らかに眠ります、
たとえ人々がどんなに残忍であっても。
おぉ乙女よ、この娘の心をお察しください、
おぉ聖母よ、一人の娘の願いを聞いて下さい。
アヴェマリア!
水を打ったように静まり返った中で歌い切ったリトル・レオ。
ラストにまた8小説のアルペジオが繰り返され、、、
誰もがこのまま厳かに曲が終わると思った時に、、、
さっと彼が右手を上げると私とジョンは
ブルース調のエンディングフレーズを大げさに奏でる。
ジョンも私も左腕を振りながら動きをあわせた。
その間にリトルレオは後ろに振り返ってポケットから黒のサングラスをかけた。
そしてまた人々に向いて振り返ると腕組みをして踏ん反り返った。
「ヘイ!マリア、俺の気持ちは分かってるだろう。
今からそっちへ行って君を口説いてやるからな。待ってろよ!」
と語りかける。聴衆は大爆笑だ。
再び彼は右手を上げて、振り下ろす。その合図に合わせて私もジョンもラストのロールを入れた。あわててルーカスがドラムセットに座ってドラムとシンバルのロールを入れる。
リトル・レオは冷静にタイミングを計ると、私たちに向かって右手を横からさっと振り下ろした。それに合わせて私たち三人は息を合わせて音を止めた。
「Thank you Baby!」
ルーカスがドラムの決めを叩いて曲は終わった。
聴衆はやんやの大喝采だった。ルーカスも興奮して
「すごいや、リトル・レオ!いつの間にこんな事できるようになったの?」
私も思わず微笑んで拍手を送った。
さすがロジャーだ、やることにソツがない。
「ブライアン!きらきら。」
リトル・レオは私を振り返って微笑みながら指を刺した。
「ああ、素晴らしかったよ。リトル・レオ!ハグさせてくれ。」
「いいよ、ブライアン。メリークリスマス。」
彼を抱き上げると
「これはグラン・パからのキスだよ。」
そう言って私の頬にキスをした。
ロジャー、これも君の計らいなのか?
君が死んだ後、私を生かせようとしたのか?
「リトル・レオ!パパにもキスしてくれ。」
「いいよ。」
彼はルーカスとジョンにもハグとキスをした。
「さあ、もう一度みんなにお礼をして、そしてメリークリスマスを言おう。」
私達はもう一度聴衆のほうを向いてお辞儀をした、そしてリトル・レオが
「メリークリスマス!Thank you Baby!」
と言うと再び大歓声が起こった。みんな大喜びで声援を送ってくれた。
リトル・レオはすべてが終わると再び私に抱かれたがった。
ルーカスが手を出したが拒否する。
「ブライアンきらきら。」
そう言って私に手を差し伸ばしてくる。
現金なものでつい先日まで私を見ると走って逃げていた彼に苦手意識があったがこうも懐かれると、俄然と愛情がこみ上げて来てかわいくてたまらない。
バックステージになっている準備室に戻ると、ドミニクやレビーやアリサなど女性陣が待ち構えていた。
「リトル・レオ!素晴らしかったわ!」
両手を広げて彼を抱きしめようと走り寄って来た。
従兄弟や女達にキスやハグで大歓迎されていた彼はしばらくするとやはり、
「ブライアン、、!」
私に抱かれようとせがんで来た。
「えらく気に入られたね。」
ジョンは少し羨ましげだ。
「よお!なかなか上出来の演奏だったじゃないか。」
ディディーもやって来たが、
「フェリックスも会社のHPでロジャーの死亡を発表したぜ。ちょっとした騒ぎになってる。」
さっそくSNSの反響が入り始めていると教えてくれた。
ステージではスクリーンで生前のロジャーが予め撮影していた挨拶のムービーを流していた。クリスマスに合わせた挨拶をしたロジャーは明るく言っていた。
「どうかみんな俺の天国への旅立ちを祝って楽しく歌って騒いでくれ。」
それを合図に、ルーカス達のバンドが再び明るいクリスマスナンバーを演奏を始めた。
私はどっと疲れを感じた。気がつけば腕の中のリトル・レオもぐったりしてきた。
「ぼく眠い、、、。」
無理もないまだ5歳だ、こんな大勢の人前で歌って、、おそらく朝から緊張していたのだろう。
「あら、困ったわね。パパ達はまだステージだし。
グラン・マもまだみんなの相手をしなくちゃいけないのよ。」
会場はごった返している。
「私がサリーの屋敷まで送って行こう。実は私も疲れた。」
あっさりとドミニクはそれならお願いするわ。と自分の車を使うように言った。
(リトルレオの実の祖母はレビーだが、彼女は子供を育てるタイプの女性ではなかった。)
「ぼくはもう少し、演奏を聴いて行くよ。」
ジョンの息子達もバンドに参加している。家族を大切にする彼はさすがに親として関心があるのだろう。私は周囲への挨拶もそこそこにジェイムズとリトル・レオを連れてサリーへ出発した。
車に乗り込むと大きくため息をついた。怒涛のような数時間だった。
思えば棺に入ったロジャーに別れを告げてサリーの屋敷を去った、随分昔のような気がするが、、、まだ10日も経っていない。
ジェイムスがレオの母親に連れて帰るとの連絡を入れると、レオの妹はインフルエンザかも知れないと病院へ行っていた。
東翼に入ると自然にロジャーの部屋に足が向く。
すっかり眠り込んだリトル・レオを連れて入った。無意識に部屋の主の姿を求めて視線が向かった先の中央のピアノの上にはバラの花とロジャーの微笑んだ写真が飾られていた。部屋の中は真っ赤なバラであふれ返っていた。
誰あろう、私が送ったバラだ。
ベッドにもカウチにも彼の姿は無い。改めてロジャーの不在に密やかな衝撃を受けながら、、、ジェイムズが暖房を入れてレオを抱いたままソファに腰掛ける。さすがにロジャーが横たわっていたベッドにレオを寝かせるのは憚られて、、、ソファにクッションを積んで小さな体を寝かせる。
毛布をかけながらあどけない寝顔を見ていると、
本当にロジャーの幼い頃はこんな風だったのだろうと気持ちが和んで来る。
しばらくしたら、レオの母親が恐縮しながらやって来た。
レオはよく寝ている、そのまま母親に抱かれて西翼に帰って行った。
幸い、妹はインフルエンザではなかった様だ。
「外は大変な騒ぎになっています。」
彼女は言っていた。
どうやら教会とセイラー・ファウンデーションのHPによるロジャーの死去の発表でマスコミが騒ぎ出したそうだ。教会と会社に報道関係者が押しかけて、、、ここもそろそろ人が集まり始めていると言う。
「マスター・レイ今夜はここから動かない方がよろしいと思います。」
ジェイムズが外の様子を察して言う。
アリサからも連絡が入り、教会でも私を探して大騒ぎになっている。
ジョンもたった今こちらに向って抜け出したらしい。
フェリックスはすでに会社を出ていたが、もう一度会社に戻って会見を開くと言うことだ。
「やれやれ。リトル・レオのおかげで私は危機一髪抜け出せたのだな。」
さようでございます。とジェイムズも同意した。
彼は久しぶりの東翼に戻って生き生きしていた。
「すぐにお食事の支度を、、」
といそいそと立ち働いている。
やがてジョンとディディーが慌しくやって来た。
「ああ、えらい目に遭った、君はうまくやったじゃないか?記者達に気づかれないうちにここに着いたって?」
「まあな。そんなに騒ぎになっているのか?」
驚いた。ロジャーは”俺みたいな年寄りがくたばったって誰も取り合ったりしないさ。”と言っていたが、、。まあ彼はセイラーファウンデーションの元CEOで社会的立場もあったし近年は社会貢献度も高く評価されていたからある程度は、、。
「おまえらフレディの映画が大ヒットしたのはつい2年前だぞ。」
とディディーが言った。そう言えば、、だけどあの映画は私たちは脇役だったし、、。
「おっ!やってるぞ!フェリックスが会社で会見を開いている」
ディディーがPCでの配信ニュースを見始めた。
「ご苦労なことだ。」
しかし、どうやら報道陣は、私の改築中の自宅や昼までいた実家にまで集まり始めているようだ。ジョンの自宅も同じことになっていた。ハイエナだな。とジョンがつぶやく。
フェリックスはもうすでに葬儀も近親者のみで行い埋葬もすませた。
本人の遺志で社葬も追悼会も行う予定はないと言った。
父はもう引退しているのであまり世間に騒がれたくない、静かに送ってほしいと言っていた。と告げていた。
しかしテレビやインターネットではロジャーは今でもバンド”レジーナ”のドラマーであり、近年はセイラー・ファウンデーションの元CEOとして多くの難病患者の治療に対してのサポートをしたりブリティッシュ・クリスマス・トラストの発起人として高度教育希望者への経済支援などで多くの社会的貢献をしており、彼に支援を受けた人々の声などを聞いても、とてもこのまま死去したことを黙って受け止めることはできない。とスピーチしていた。
私はディディーにもうそのニュースを見せるのは止めてくれ。と頼んだ。
ジョンも同意して夕食を兼ねた酒盛りが始まった。私にはあの夜以来の、、、
「今夜は君より先には潰れないぞ。」
ジョンが皮肉をたっぷり含んで笑う。
苦々しいがジェイムズから聞いた話では、ロジャーの遺体を抱いて凍死寸前だった私をジョンはたった一人で抱えて走ったそうだ。
「それはそれは、必死で
”死ぬなブライアン!絶対に死ぬな!”と泣きながら叫んでいました。」
と聞いてしまっては何も言う事はできなかった。
屋敷の周りには続々と周辺の住人が集まっているそうだ。
「この寒いのにご苦労なことだ。」
とジョンは相変わらずだ。
私は、ルーカスの言っていた言葉を思い出して屋敷の中にあふれている赤いバラを使って、集まった人々に一輪ずつでも渡してやる様にジェイムズに言った。
ジェイムスは私の提案した彼の仕事を増やす余計なアイデアを喜んで受け入れてくれた。クリスマスイヴの夜なのに、、屋敷に残っていた使用人達と。
ロジャーの死を悼んで集まってくれた人々に、感謝を込めて赤いバラを渡して行った。
一晩中バラを配らせるのも申し訳ないので、山のようなバラの花を正面の門の前に置いて
「皆様の彼を悼んでくださる気持ちに心から感謝を送ります。
どうぞ、バラを一輪お持ち帰りください。」
とプレートをつけて出して置いた。
次の日になっても私はロジャーの屋敷を出られなかった。いや出かけようと思えば出かけられたのだが、、、例のリトル・レオが私にまとわりついて離れない。
「ブライアン。きらきら。」
「そうだね、君がそばにいるときらきらしてるね。」
ザックが物悲しい表情でレオの頭をなでる。
葬儀に参列するためにイギリスに来たザックだったが、残っていたコンサートを消化するためにアメリカに戻りやっと昨夜イギリスに舞い戻った。
ザックも昨夜自分のSNSでロジャーを追悼するメッセージを掲載し、
以前発表した”The Shape Of Heart”の”アールス”がロジャーであったと
明かしたものだから雑誌記者などの好奇の目に追い回される羽目になっていた。
結局、私とジョンとザックの3人でロジャーの残した曲を完成させようか?
と、それまではこの屋敷に滞在することになった。
いつの間にかリトル・レオも西翼からすっかりこの東翼に部屋を移し、
ジェイムズや使用人達は私をマスター・レイと呼んで気がつけば私をこの東翼の主人として扱っていた。
年が明けた、ルーカスは”ブリティッシュ・クリスマス・トラスト”を
”ワールド・クリスマス・トラスト”とする事業のためにアメリカに行った。
数ヶ月の滞在になるために妻と2歳の娘も同行するがリトル・レオは残った。
もともとは4月ごろになる予定がロジャーの死で逆に
”B/C/T”が注目されワールド化が急がれることになったらしい。
ロジャーのためのメディカルルームは医療機器はほとんどそのまま残されていた。それで州立病院から週に2~3日医師を派遣してもらって屋敷の使用人にかかわらず、屋敷の周辺の住人達に無料で診察を開始した。
派遣されてくる医師はむろんハリソンなどの研修医だ。
看護士は例の屈強の初老のベテラン看護士のキャシイ。
リトル・レオはやはり同年代の子供とはあまり交流ができない。
ジョンのひ孫や私の孫たちが時々尋ねて来ると遊ぶが、会話が成り立たない。
リトル・レオになぜ急に私に懐いてくれたのか、聞いたら
「グラン・パがいなくなったらブライアンと仲良くしてくれ。って」
言われたそうだ。
幼い彼は、私と仲良くなればグラン・パがいなくなる!そう思って私と仲良くしないように逃げていたそうだ。
今ではザックにチェロの弾き方を習いジョンに畑の土の作り方を教わり、
ジェイムズにグリーンティの煎れ方を教授されていた。
ハリソンは聴診器をプレゼントして私は勉強だけではなく、
将来彼に言い寄ってくる男たちの殴り方を指導した。
彼と恒星間の光の進み方の議論を交わし相対性理論の矛盾を語り合った。
やがて春が訪れて、ロジャーの残した曲の”Love it Amore”を完成させて”アヴェマリア”や”ナイチンゲール”などを収録したアルバムを発表した。
”Regina&Itzhak Bowser”として。あくまでもひっそりと、、。
完成したCDをロジャーの墓に持って行く。
もちろんリトル・レオも一緒だ。
「グラン・パ、きらきら」
リトル・レオはいつもロジャーの墓を見るとそう言う。
私は”きらきら”している時と”モヤモヤ”の時があるらしい。
ちなみにザックとジョンもきらきらしている時があるそうだ。
ジョンは”緑色”と言っていた。
「ロジャーの墓の中は広くて、、」
ジョンが葬儀の時のことを語ってくれた。
「その空間にロジャーを一人で置くのが辛くてさ、、、。」
ジョンには珍しく感傷的な言葉を吐いた。
「バラを入れたよ、、君が送ってきた、馬鹿ほどの大量のバラを、、。」
ロジャーはバラに埋もれて眠っている。
春の間近い今、彼の墓の周りにも庭師の丹精した赤いグランド・ガラや
クリムゾン・グローリーなどのバラがつぼみを揺らしていた。
(ロジャー!私が行かなくて待ちかねているのではないか?すまない。
もう少し落ち着いたら必ず行くから!)
「君がここに入る時は、バラの花の残骸を掻き分けて入らなければならないぜ。」
たとえ、強固な岩石に阻まれようと、掻き分けてたどり着いて見せるさ。
ロジャーの傍らに。
もう少しで君との物語を書き終えることができる。
後数年、リトルレオが大きくなったら。必ず君の元に行くから。
「グラン・パ、僕の心臓が”愛してる”って言ってるよ。」
リトル・レオを見返った。
「愛してるよ。ブライアン。」
青い瞳が私に笑いかけた。
「私も愛してるよ、ロジャー!永遠に、、、。」
ここまでお読みいただいた方がいらっしゃいましたら
ありがとうございます。つたない文章で、読み返すと物足らない部分が多く
特に冒頭の辺りは少しずつ改定していくつもりです。
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