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幸福は赤いネクタイの中に
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今日は特別な日だ。
糸珠は由緒正しいα家、#皇__すめらぎ__#の一家に生まれた。当然αだと思い生きてきた。性別検査でも結果はαだった。が──ある日仕事の帰りにラット状態を引き起こしてしまった。直ぐに制御剤を服用したが街の袋小路へ身を潜めた。その時に出会ったのか幼なじみの正海だった。「逃げ込む姿を見た」と、後をついてきたのだ。
どの道、この仕事をしてると言うだけでも距離を置かれている、更にα家の人間が実はΩ性だったと知れば見捨てられる。なら、『番』というのもひとつの道だと思い、提案をした。その時、お互いが赤いネクタイを締めていた。
ネクタイを締める彼は幼なじみの#美禅正海__びぜんまさみ__#。ホテル経営をする美禅グループの御曹司だ。ひとつ周りと違って輝いてるとしたら──恋人を愛してやまないという溢れんばかりの愛情を持っているところだ。そんな正海の恋人が……俺、#皇糸珠__すめらぎしず__#。芸歴20年のベテランの注目俳優だ。正海と糸珠は赤いネクタイが引き寄せた『運命の番』この契約を結んでから、はや一年が経つ。
一緒に住む家は2LDKのマンション。朝ごはんの準備に切磋琢磨していると、リビングには両面を焼きほんのり甘い香りのトーストと、香ばしいコーヒーが漂い、眠気を飛ばし食用を誘うようだった。
「正海、朝ごはんできたよ」
「ああ、美味しそうな匂いがする」
「トーストと目玉焼き、あとコーヒー」
「目玉焼きはもちろん……」
「半熟だよ。デザートもある」
「桃、がいい」
「そう言うと思った、好きだもんな」
いつもの掛け合い、阿吽の呼吸。幼なじみだから、好みも好きなものも知っている。向き合って朝食を食べる、この何気ない日常がとても好きになった。この日常が当たり前ではないと分かっているからだ。
正海が椅子へ座ると、真向かいに糸珠が腰を下ろした。そして両手を合わせ「いただきます」と言い視線を合わせ微笑んだ。
──ああ……はじまりの朝、その笑顔が見られる幸せが愛おしい。
正海はそう思いながら、目玉焼きをトーストの上に乗せケチャップをかけて大胆にかぶりついた。その様子をドキドキしながら見つめた。
「……見つめられてると食べにくいな」
「ごめん、口に合うか気になって」
「美味しいよ、とても。でも糸珠の方がもっ……」
「正海!それ以上は言わないで、恥ずかしくなる」
何を言うか察した糸珠はその場に立ち身を乗り出すと正海の唇へ人差し指を立て眉を下げ笑い唇を尖らせた。
「残念だな……なら、今夜愛を叫ぼうか」
「覚えてくれてたんだ?」
「当然だ。今日は番になって一年、祝おう」
「なら、とびっきり甘い夜がいいな、正海」
「極上のスイートルームを用意したよ」
「へぇ、さすが御曹司様!今夜楽しみにしてる」
そんな甘い会話を弾ませながら朝食を食べ終えるとそれぞれ仕事へ向かった。
そして迎えるはこの時がやって来た。迎えに行くと言うので、糸珠は仕事終わりに事務所の近くのカフェで待っていた。注目俳優でり念の為軽く変装をした。暫くして一台の白いリムジンが止まった──リムジンと言うだけでも目立つのにさらに白い色味ときたら悪目立ちもいいところだ。
糸珠は辺りを見渡しリムジンのドアが開いたその一瞬に車内へと乗り込む事に成功した。
「ちょっと、何この車! 目立ちすぎ」
「御曹司である俺のかわいい番にはこれくらいがお似合いだ」
正海は誇らしげに笑みを浮かべ自己完結するように頷いた。そうだ、正海はこういう奴だった。自画自賛、自信過剰。そして恋人を猫可愛がりする──これは最近気づいた事だ。
そんなこんなしてると、車はとある場所に着いた。それは、今朝言っていた「極上のスイートルーム」という名の美禅グループが経営するホテルだった。
「ここって……」
「俺が経営を任されてるホテルだ」
「……立派だな。でも、スイートルームなんて高いんじゃ」
「ノープロブレム。俺を誰だと思ってる?」
「お、御曹司……?」
「そう。で、経営を任されてるからスイートルームくらい如何様にも」
正海へそう言って微笑み、車を降りると後ろのドアを開けて降りるようエスコートした。
そして、そのスイートルームに案内されると、その空間には間接照明として柔らかいオレンジの光が点在しムーディーな雰囲気を醸し出していて、さらにキングサイズのベッドには赤い薔薇が。そして、テーブルに用意されていたワインは20年物で、製造年月日が一年記念の日付のものだった。さらに、ワインボトルに運命の赤いネクタイが綺麗に結ばれていた。その中でも目をひいたのは、1mはある大きなケーキで、それはまるでウェディングケーキのようだった。
「すごい……この部屋」
「お気に召しましたか、糸珠?」
「もちろん!でも、いいのかな? こんな立派な……」
用意してくれた極上のスイートルームというものが、愛とサプライに溢れていて言葉を失う程だった。
「そうだ!ワインに結んであるネクタイ、解いてみて」
「?……うん」
言われた通りワインに結んであるネクタイを解いてみると結び目にひとつのシルバーリングが隠されていた。
「……正海?」
「指輪。番になって今更プロポーズって言うのも変だけど……」
そう、照れながらお目見えした指輪を手に取ると糸珠の左手を軽く持ち薬指にその指輪をはめた。
「プロポーズ?でも……だって、もう……」
番の契約を交わして1年になるというのに……そう頭の中は嬉しさや混乱が渦巻いていた。
そんな中、正海は自分のスーツのポケットからもう1つ小さくて四角い箱を取り出して開け、その中にあったもうひとつの指輪を糸珠に渡した。
「糸珠、番として、又、お嫁さんとして生涯俺の傍に居てくれないか……?答えがYESならその指輪を俺の左手の薬指へ」
「もちろん──」
糸珠は嬉しそうに両目から大粒の雫を落としながら、迷わず薬指を指輪をはめた。
もちろん──YES.
赤いネクタイが引き寄せた運命の番。赤いネクタイで結ばれた「心」……それは、婚姻の証。
『ねぇ正海、運命って信じる?』
正海は返事の代わりに、糸珠を抱き寄せ思いの分抱擁をし、腕、手の甲、額…以後に唇へと口付けをした。
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