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夜の匂い
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過激な歌ばかり聴き好んでいるくせに、いざ口論となると言いたい事の一つも形にできない──諦めて頭を下げるが、その笑顔は乾ききっていてそれを潤すように諦めの表情が染み込んでいった。負けを認めるとかそういうことではない、〝降参〟と言った方が見合っている。
ずっと気持ちを伝え執着してきたのは星臣レイ、一匹狼の新人アイドルだ。諦めの笑顔を浮かべているのは俺、仁井寛人。星臣レイのマネージャー兼──、まだこの事は伏せておこう、と言葉をのんだ。
そもそも、マネージャーとして就いた時、正反対の性格で、仕事として上手くパートナーシップがはかれるかとても不安があった。その不安も的中し、レイと寛人は口論になことも少なからずあった。ぶつかることが多かった分、お互いのことを分かり合え、信頼も積み重なっていった。そうした中で、レイの心の中に生まれた気持ちは〝恋心〟という甘酸っぱくほろ苦い感情だった。その気持ちをぶつけてきてもう三年も経った。三年も一途に想い気持ちは次第執着するまでになっていた。その変化をもちろん感じていて、想いが狂気となる前に寛人も気持ちを伝えレイの愛を受け入れることにした──そうした経緯で、マネージャー兼恋人として今に至る。
今日はオフの日。
レイは今日もいつもの様にソファに座りヘッドフォンをして好きなバンドの音楽を聴いていた。食後の片付けから戻ってきた寛人がその姿を目にすると後ろから優しく包むように両手で抱きしめた。
「また音楽聴いてる、俺の事も構って欲しいな」
きっと、ヘッドフォンで音楽を聴いているから聞こえないだろう。けれど……だからこそ恥ずかしめもなくいつもは言わない我儘を口にできたのだ。
抱擁に気づいたレイは音楽を止めヘッドフォンを外して首にかけ振り向いた。
「寛人、おつかれー。終わんの早ぇーな!流石だわ」
「そりゃあ。せっかくのオフだからね、一緒に居たいさ」
レイは寛人の髪をわしゃわしゃと撫で、次いで頬へ口付けをした。その褒め倒しを受け歓喜に湧く心をそのまま表現しようと居た場所から前へ回りレイを抱き抱えるとレイを上にし対面でソファに身を沈めた。
「ちょっ、……甘え上手だなーおい」
「誰かさんが可愛いことするから」
「いつも抱き潰すから、今日はちょっと甘く可愛く……と思ったんだよ、バーカ!」
「へぇ、いつもはセックスもロック並みに激しいから今日はバラード曲のように……って?」
そう、いつもはハードロック並みにセックスも激しくてこれでもかってくらいに抱き潰される。異様に優しい今日は、珍しいことでこんな時は──何かある。
「あの……さ、使わない二人分の食器が捨てられないでいるんだ」
「それは昔の恋人……との?」
「あったりめぇだろ!!寛人との思い出増やしてぇ、寛人との食器……も」
「捨てられないのには理由あるんだろう?」
「まぁ……そう、だな」
「なら、無理に捨てなくてもいいさ」
「いいのか?」
「いい……でも、俺も嫉妬くらいする」
「……使わないからクローゼットの奥にしまっとく」
『使わない二人分の食器』と聞いただけで、心の奥底には嫉妬という黒い花が僅かに開いた。
理由──なんだう? と思いながらもこれ以上嫉妬すのが嫌で……嫉妬の度が超えたら自分がどうなるのか怖くて聞けなかった。でも、怖かったのはレイも同じだろう、と思った。話し終えたレイは肩口に額を擦り顔を伏せ、少し身体が震えていた。その時、ふわりと知らない匂いが鼻を掠めた。
「……それより、この匂いはなに?」
レイの顔を上げさせ、両頬を自身の両手で包み逃げられないよう抑えた。
「匂い……?あ!これはイメージキャラクターをつとめる香水だろ!?」
「……!!」
「おいおい、マネージャーだろ?忘れんなよ」
「いや、……あ、ごめん。あの、これ……」
「勿体ぶるな、なんだよ」
忘れていた、すっかり忘れていた。今度放映される香水だ。それよりももっと重要なことを忘れていた。この香水はレイをイメージして作ったと言うこと。
「この香水な、俺がレイをイメージして……」
「は!?そんなこと聞いてな……ちょっ、あ……っ」
寛人はレイの首筋へ鼻先を擦りスンスン、と小刻みに息を吸い込み嗅いだ。
「んーーーはぁぁ。これ、夜の匂い──レイと過ごす夜の匂い」
「あははっ、なんだよそれ」
匂いを嗅ぎ満足した寛人は顔を上げ、双眼を細め笑みを浮かべた。寛人が発する言葉にクスッと笑ったレイは、寛人の髪をわしゃわしゃと乱して撫で額を軽く小突いた。
「あ、その香水のコンセプトが夜の営みで、多少の媚薬成分が……」
「はぁ!?……なっ、……ばっ!!」
「気分どう?」
「悪い!!!ばっ、……っかバカ!」
なんか身体がポカポカ熱い……ような。そう思いながらも媚薬なんてそんなモノ初めてでどうしたらいいのかと、気が動転して寛人の胸元をポコスカと叩いた。
「あは、……ごめん、ウソ」
「……!?」
「あ、うん……攻めのそういう慌てた顔、いいよね」
──まぁ、今日くらいいいか。と、レイは諦観の笑みを浮かべ寛人の髪をくしゃりと撫でた。
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