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洒涙雨
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会話の途絶えた部屋にテレビから聞こえる笑い声が虚しく響く。こんな気持ちになったのは数時間前の出来事がきっかけだった。
龍時は三年間も付き合った彼女を振った。『ごめん、隠してたことがあって…少し前から男が好きだって……好きな男が、好きな奴が居るんだ』そう言って彼女との思い出の場所のこの公園で、濡れた紫陽花を挟み顔も見ないで別れを告げた……彼女と過ごしてきた三年間を雨水と一緒に捨てた。なのに、なのに彼女は雨に負けない笑顔で『楽しかったわ、三年間。でも……最後まで残っていたのは私の気持ちだけだったのね』と、そう言った。その言葉が今も頭に染み付いている。
誰かを愛する為には犠牲にしなくてはならないこともある──龍時は遅咲きの同性愛に真っ直ぐ見つめ大切にしたいと決めたから、犠牲を払った。それが正しかったかなんて分からない、きっと答えはない。あるとしたら、〝今自分が幸せであるか〟ではないだろうか。
別れた後帰宅し、テレビから聞こえてくる笑い声がとても痛く心に突き刺さった。笑って楽しい日々を送るはずの未来を奪ってしまった事は暫く龍時の心を蝕んだ。毎日がセピア色で色褪せた世界に居るみたいで、良くもなく悪くもなく……ただただ恋愛とはかけ離れ平凡な日々を送っていた。
あの別れから恋愛に臆病になり、好きだった男への気持ちは増すばかりなのに、恋愛に踏み切るのが怖くて何もアクションを起こせなかった。そうした無刺激な日をすごし半年が過ぎた。
そろそろ次の恋に足を踏み入れてもいいだろうか、そう思っていた時、偶然か必然か……あの紫陽花のある公園で出会ってしまった、好きになった男・礼生に。それから、時間を作っては礼生とデートを重ねた。もちろん、自分がノンケであることも話し、過去のことも話した。礼生もノンケの龍時と過ごすことで溢れてくる不安を話してくれた。いつしか、礼生のそばに居られることが幸せと言えるものになり、同時に龍時の心の救いにもなっていた。礼生にとってもそうであるといいな……と願った七夕の夜、雨が降っていた。どうやら洒涙雨と言うらしい。
雨の中、傘をさしてあの公園へ来ていた。
「礼生…礼生、俺は幸せになってもいい、のか?」
「なに言ってんだよ、もう半年も」
「それでも!!それでも……今も頭の中を支配してるんだ、あの言葉が……」
あの日のことがキズアトとなって今そばに居る礼生との幸せにこのまま浸っていていいものか、そう問うと礼生は強くしっかりと抱きしめてきた。その抱擁が意味するものは──。
「もういいんだよ!!もういい、龍時。俺にとって今が最高に幸せだ!龍時は違うのか?」
「おっ、……俺だって今が最高に、ひっ、幸せだ。救われてる!!」
「なら、その気持ちのまま俺と生きろよ!!……な?」
礼生は涙を流していた。その涙は今の龍時の悩みも吹き飛ぶほどの真っ直ぐな気持ちのあらわれだった。
「れ、お……礼生と一緒に生きるっ!!好き、好きだ、礼生ぉ……っ」
見上げ涙を瞳に溜めたまま同じ気持ちをぶつけ、唇を噛み締めると同時に大粒の涙が零れた。そして、雨の降る中、傘を投げ捨て軽く背伸びすると礼生の唇を強引に奪った。
神様ごめんなさい。
こんなの運命なんかじゃない。でも、きっとあの別れも礼生との今も運命だったんじゃないかって本当は思うんだ。
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