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夢
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資料の中には他に、国が掲げている『特殊能力障害者利用制度』についてのものがある。
就職氷河期の中、障害者は生活で懸命だが能力だけは保持しているのでそちらは代わりに就活生に利用する権利を与えるという、通れば大ニュースになるものだ。
障がい者の生命活動、精神的な活動を補助するためだという説を物凄い勢いで踏みにじる驚くべき暴論だが、概ね歓迎され、利用サービスもまだ非公認だが順調に開始され始めている。最低限の生命維持が生きているということなのだろうか。
俺にはよくわからない。
障がいを持つ知り合いは知っているけれど、近頃は様子がおかしくなってしまった。
障がい者や、特殊体質者の自殺も増えてきたらしい。
少し前もまた一人死んだ。
けれど『負担』は減ったとしてまた歓迎されるむきもある――俺には障がいはないけど。
ある意味そんな扱いだから、なんだか複雑な気持ちになった。
俺たちは普通ではない。
だから普通な人たちに、利用権利が与えられる。
国ごと、推奨されて。
存在が無くなっていく。
懐かしい夢を見る。
胸がキリリと悲鳴をあげて苦痛を訴えた。この気持ちは、言葉でどう表せばいいのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
少し身体が楽になってきたので片付けの再開となっていた。研究資料を見つけてはぐしゃっと潰したくなるのを堪えてファイルに束ね、マジックで番号をつけ作業をする。
研究対象なんていやだった。分析されなければならないような人間になんて、なりたくないのだが、昔からしてきたのはこの紙類への貢献に過ぎない。
最低最悪のゴミ類が、賞を取る様を毎年見かけている。
「こういうのを見るのが嫌なのは、当たり前の感情だと思っていたっけ」
プライドが高いと思われてしまうようだから、もう言わないでおくということを学習したのはわりと、最近のことだと思う。
「どした?」
かいせが横から声をかけてくる。
ハニーブロンドの髪。
無駄に優しくて、邪魔なくらいお節介だ。
だから、あまり甘えてしまわないように無愛想に接することにしている。
「……」
無視していると、ご機嫌斜めかー? と聞かれてしまった。
やかましい。
「話しかけるなと言ったはずだが」
「だって、お前、寂しそうだから」
答えない。
かいせは額に指先を当てて、かってに記憶を読み取る。
「……っ」
恥ずかしくなって目を逸らすと、よしよしと抱き締められる。苦しい。
「不安になるのは仕方がないよな。それで家族に気味悪がられてんだから仕方のないことだ」
もう少しデリカシーというか、オブラートに包んだ言い方はできないものかと思った。
でも、まぁ、いい。
気にかけてくれたことだけは伝わるから充分なのだろうか。
へらっと笑ってみる。苦しい。
「信じる人なんか、誰一人居なかったんだとそのとき思った、だけだよ」
彼は少し悲しそうな目をしていた。
開き直れて楽になってよかったなと、笑ってくれたなら、俺も笑い飛ばす予定だった。
「自由って、ねぇよな」
ラベリングをし続けながら、資料に目を通す。感情の残滓が流れ込んでしまう彼の痛みもまた、尋常でなかったはずだ。
「面白い、愉快だ、笑える、信じられない、そんなんばっかだぜ……」
流れ込む感情を口にしながら彼はため息を吐く。
売り物として、奇異な目に晒される自分達の存在の産物にひとつずつ触れながら、見えない檻から出してはもらえない。
いじめを受けながらいじめの様子を毎日聞かされるようなもの。
何もかも、狂っていた。
椅子にもたれていたそいつはやがて、俺の太ももに座って、ぎゅっと抱きついたままで動こうとしない。もしかしたら、泣いているのかもしれないが顔を見せようとはしなかった。
俺やこいつは、いったいどこから壊れてしまったのだろう。
今まではただ、まっとうに、普通に生きていきていたような気がする。窓からの陽光が周囲を照らして、綺麗な黒髪を、少しだけ金色が混じったように見せている。
それを撫で付けながら、ひどく感傷的になる。
俺もあまり良い気はしていなかった。
実力ではなく、権力が牛耳る世界であの紙束の価値がつくことに笑ってしまう。
あんなのは形を変えた奴隷商じゃないか。
「そういや、俺らの科って、どの辺なの?」
彼の髪に意識的に触れながら、そうだな、と考える。
「俺もごちゃごちゃしててよく知らないから違うかも知れないけど、たしか地方組織と中央組織があって、こっちは一応地方に位置するんだっけ?
だとしたら知事、公安、本部、本部長ってなるはずなんだが、地方機関の通信部とかどうとかとなんとかって言ってた気もするし、それだと北海道と東京に通信部があるな」
「よくわかんないね」
「だな」
科学も通信部も、上は庁の長官に繋がり、国家公安がさらに存在する。そして内閣総理大臣に通じる。
能力障害者利用制度がそこに繋がる。なんていうか、逆らうともう詰むような話だと思う。
「俺らってたしか新98条らへんだっけ?
組合組めないんだよな……」
「マジか」
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