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諦めるしかない?
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もともと俺だって、平凡に生きてきた。それはずっと続くって信じても居たんだ。
でも長く続かなかった。
触れただけで感情が伝わるあの力があったせいだろう。
どこからバレたかはわからない。
突然、呼ばれた上司に、さわってみなさいと差し出された書類。
そしてそこから伝わったもの――――俺が、驚いた顔をしたからなのだろう。そこからは素早く、気付いたときには、俺はリストラだった。
……ふと、我に返るとじっと見つめられていた。
あぁ、かわいすぎる。
ちゅー、と唇を吸うと、そんなつもりでは無かったのかさすがに驚いた顔で硬直している。
「んっ……」
びくびくと震えながらも、しばらくされるがままになって、それから離れた。口から糸が伝う。
「なにするんだ」
「ちゅー」
ぱしんと頭を叩かれた。あまり痛くはないが。
目元を見たら、どうやら泣いてたみたいだ。
「なに、なんか思い出しちゃった?」
「思い出したく、ない」
「そうか。ま、そうだよな」
小さい頃は、よく、カウンセリングを受けさせられた。そのときも、何があったか話しなさいと言われるとどうしても気が進まなかったように思う。
俺は、かいせにそれを言おうかどうか迷った。けれど、まあ、いいかと思い、素直に口にする。
「少し、妬いたんだ」
彼にしがみつくが、んー?と気のない返事だった。相変わらず、ふざけたやつだ。
妬いたっていったら、わからないのか。
「あのとき、りゅーじさんが、訪ねてきただろ。従わないと、ただ雰囲気を壊されただけで終わってしまう気がしたんだ」
書類を束ねるのを再開する。
彼は、少しだけ、驚いたようだった。
「あぁ、あれ、反抗したつもりだったの? 俺はてっきり、俺よりも仕事が大事なのかと思った」
書類を束ねる。
「好きだといいながらも、いつもは、俺は置いていかれるから、かな」
腰に手が回る。
「ごめん」
邪魔だ。べたっとひっついてくるそいつを引き剥がさないまま、分類表を確認する。
「お前も自分の仕事しろ……」
彼は嬉しげだった。
「俺を束縛したがるわりに、誰かと遊びに行った話しかしないしさ」
ぎゅ、と抱きつく。頭を撫でてくれる。
「怒るのは苦手だ。だから、お前がそうするなら、俺もそうするよ」
「俺が浮気してたら、お前もそうするって?」
「ああ」
はぁー、とため息をつかれる。意味がわからない。
彼から離れて、ファイルにひとつずつ分類通りの記号を書き込む。
さきほどよりもだいぶん片付いて来たはずだが、目の前の事務机には、まだまだ書類がある。
「お前は冷たいんだか、デレてるんだか、わかりにくいな」
無視して作業をする。
しかしこいつは俺には全体的にわかりにくいわけだが。
「好きだよ。だから、寂しくなりたく、ないんだ」
囁く。彼は、目を閉じて聞いていた。
「じゃ、ショートケーキは、口実か」
「4割くらいは、な」
がば、と抱きつかれそうになったのを押し退けていくらかのファイルを棚に戻していく。
「あー、やっぱ可愛いなお前」
「動け、仕事しろ」
「ちゅー、していい」
「動け、仕事しろ、死ね」
「ケーキなんか俺が買ってやるのに」
「しかし、食べたい気分は今日だったんだよ」
「じゃああとで、買いに行こう、な?」
優しくそう言われて、少し嬉しくなる。が、そう簡単に優しくする気はない。
「まず動け」
「えー、つれないー」
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