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なにもない
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「なんで俺だけ生きてなきゃならない? 利用されてたのは、俺の方なんだ……」
身体中に、ぞわりとしたものが這い上がってくる。見たくもないものを見てしまった。
看護師が二人やってきて囁いて言ったときのような、不快な感覚。
「怖い、こんな世界も、この会社も、俺自身も、だいっきらい! いやだ! うんざりだ! 今更、失ったものばっかり、戻らないものばっかり! いい加減にしろ、俺はっ――」
叫んでいる俺をなだめようと、かいせが手を伸ばしてくる。うるさい。いらない。
「……俺は」
かいせは微笑んでいた。
「お前が生きているなら、それで、嬉しいと思うよ」
俺は。
何も答えられない。
「お前が生きているから、それで、いい。あのときも、橋の側に居てくれて、俺と、会ってくれて。ありがとう」
やだ。
聞きたく、ない。
甘えてしまうのは、きっと。
何もない証拠だ。
「……泣くなよ、だから」
頭を抱えて、踞る。
足元にある資料に映る少女は、優しくわらっている。戻って来ない。
大事なものは、いつか、なくなる。
「俺は、大事なものなんて、持ちたくない」
涙で、視界がぼやける。塩辛い味がしている。
それはとても懐かしい味。
「失うものなんて、要らない。なくなっちゃうものなんか、要らない!」
呼吸が苦しくなる。
痛い。痛い。痛い。
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