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波
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さざ波が聞こえる。
たぶん気のせいだが。
いつかは、あいつの目の前で死のう。
それが復讐になる日が来るだろうか。
生きているんだか死んでいるんだかわからない毎日。
傷ついていないのに傷ついていると言われなければならない苦痛。あの頃だって『痛い』と知らなければ、痛みなんか、感じたりしなかった。
布団から起き上がり、軽く運動してから、ぼんやりと携帯で時間を確認する。まだ朝の4時だ。解瀬は寝ている。
少しだけ嘘を吐いている。大事、と好き、は別だということ。
『すき』が、正直、まだよくわかっていない。
『恋』も、よくわからない。特定の、というほど、他人を信頼した記憶がないのだろう。
いつか消える。消える。消えるのは、俺の頭の中。
裏切られ続けたショックから逃れるためなのか、一定以上の好意がある順に、相手の記憶を喪失するらしい。
らしいというのは、思い出せないからだ。
治せるなら治したいけれど、もう大分、他人を忘れたせいなのか、そもそもの対象になる相手さえ居ないため、不便さえなくなってしまっていた。
だから『無関心』ではない他人との関係は、なんとなく、落ち着かないのだ。まともに覚えているということが、なんだか異様な気さえする。
きっといつか忘れるのに。あいつのことも。
それを無くしたとき、俺は何をなくしたかわからないまま、しばらくぼんやりする日々を過ごす。
何度も覚えようとする、そのくらいしか、今はできない。だから。
正直、全くわからない。
『好き』が、『恋』でなければならない理由も。二つの違いも。
何を見ても、どんな本を読んでも全く理解できなかった。
ただ、そこに相手と自分がいる。それだけの話じゃないのだろうか?
世界には、誰一人居ないかのようで。とてつもなく、寂しい。けれど、失うのも同じ。
彼が、特別な関係に拘る意味もわからない。
特別だとなにか変わるのだろうか。
相手に特別な好意を求める彼と、相手に好意を持つことそれ自体が異例で特別な俺では、性質が違う。
誰一人信頼出来ずに裏切られ続けてきた結果――好意と、万が一のときのショックから逃れること、二つがセットになっている俺とは。
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