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逃走
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頭がおかしい。
病院に行ってみたけれど特に検査に異常も見られないから、大体まっすぐ帰宅することになっていた。
やる前からなんとなくわかったり、なんとなく出来てしまうことがあるたびに、周りが言う、天才とか秀才というやつを演じた。でも俺は、自分がそうだとは思わなくて心が苦しいままだった。
寂しい。
みんな、やる前からわかればいい。なんとなく出来たらいいのだ。
なんで俺だけは、こんなに異常なのだろう。
出来ないことがいっぱいあって、出来損ないで、周りと違う。
欠点だらけ。
その上、妬みを買いやすかった。
兄弟、先輩、親友だと思っていた友人たち。
いつの間にか俺を裏切ったり、殴ったりとしていくようになった。
寂しいだけ。
何か役にたとうとしたかっただけで、周りが引いて居なくなることばかりだから、そのうちなにもしなくなった。
何が、天才だ。
自分達が怯えてしまう不気味な原因に、名前を付けて、叩きたいだけなんだろう。
どこにも行けないし、なにも許されなくて、大事なものができればすぐ誰かが持っていく。
やがて、俺には何一つ残らなくなった。
あまり表にでれば変なことで目立つときがあるから、表だったことは控えた。
なにも残らない上に、怨みや妬みだけを買っていく毎日だった。最悪以外のなんだっていうんだろう。
神様がいるなら、早く殺して欲しかった。
だって、だいたいそういうやつってのは、早死にする。
俺みたいに中途半端なやつは、いつ死ぬんだろう。どうせ面白いこともないのに時間ばっかり浪費しているなんて。
うっかり口を滑らせたことが、予知だったこともあったな、試験の内容だったり、友達の好きになる人だったり、無くした落とし物の場所だったりした。
彼らがなんと言ったかはお分かりだろう。
『お前がやったのか』
精神的にボロボロになった。誰からも疑われるから。解決したところで、疑って叩かれるだけ。
――なのに、誤解が解けたら今度は頼ってくるのだ。
人間の醜さだった。
気持ち悪い。気持ち悪い。
今更、何しにくるんだ。もう怒ってないよという顔で再び現れてくる他人を見ると、怒りたいのはこっちだという気持ちになった。
だから。
『なぁ、色――――』
あの声も。
嫌いだ。
『お前に、頼みがある』
嫌いだ。
『金は出す。条件は悪くない。簡単な依頼だ、なあ、頼むよ――』
ああああああああああああああああああああああ
《お前がやったんだろ?全部知ってて、黙ってたんだ。最低だな。》
違う、違う、違う違う違う。
《そんなに簡単に解けると思ってるのか》
《たぶんこいつが犯人ですよ》
《お前、これは丸一日くらいじゃ、解読できないはずなんだよ》
《お前がやったんだろ》《吐け、何を知っている》
俺――
「っ、ぁ……っ、はぁ――」
息が苦しくなって目が覚める。
かいせの家には帰らず、近くの宿に泊まった。
人間は怖い。
とても怖い。
怖い。
なかなか過呼吸が収まらなくて、しばらくのたうち回った。
誰かの人形になるか、
犯人扱いされるか、
何をしても手元に残らない、生きてるのかわからない毎日を過ごすか。
3つならどれがマシなのだろうか。俺にはあまり判断つかない。
「とはいえ、信じることを押し付けられるというのは、性に合わないかな」
人は裏切る。
いつか。
そんなつもりでなくとも。
だから。
ほとんど眠るだけというスペースから抜け出し、会計を済ませようと、部屋を出る。
淡い光の照らす廊下さえ、なんだか癪だった。
あの明かりも量産されて、個性はなくて、でも、安定している。
「ちょうどいいバランスの他人って、いないものかな」
愛でも憎悪でもない、何かが欲しかった。
好きでも嫌いでもない、そんな、ちょうどいい何か。
愛でるだけ愛でてから、突然突き落とすことも。嫌うだけ嫌っておいて、ニヤニヤと頼ってくることにも。どちらにも、疲れていた。
愛していると囁く他人は、いつかは手のひらを返そうと考えている。
嫌いだと浴びせる他人は、いつかは利用してやろうと機会を待ちわびている。
だから。
生きてくのに、疲れていた。
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