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音楽
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「 」
「 」
「 」
通話が聞こえる。
途切れ途切れ。
まるで、ささやくようだ。
俺は、ぱちっと目を覚ます。
「……?」
色は出勤準備をしているのか既に髪をとかしていた。なんの話かもわからないそれを、どうにも出来ない上に案外どうでもいいことだったりするから、迂闊に話せない最悪な目覚めに、俺は頭がいたくなった。
この『回線』は、いつ止むのだろう……
どうでもいい内容なんだろ?
聞きたくない。
決めつけてから、色を見つめた。
「どうかした?」
そいつが首を傾げる。
俺はなんでもないと言う。頭の中が、混線する。ふいに、無線が入った。
「ガソリンスタンドよ。それから交番」
「ちょっ、ともう!! 用件言って!」
たぶんこの声は橋引だった。
「だーからっ、今から向かうの」
「いいよ、別に」
行きたくない……
俺たちが常に抱える、慢性的な気持ち。単なるやる気が出ないのとは違う。
曖昧な、形を持たない、ふわふわした目に見えない、何かを、在るものとして考えねばならないという、例えがたい苦痛。
知りません、わかりません、と言ってしまいたいのに、それを制御出来なくて。
得たいの知れない、妄言ともつかないものを、他人に大真面目に打ち明けることへの、不安。実態のない痛み。
健康であるにも関わらず、酷く、意味のわからない妄想に捕らわれているかのようで。
痛々しくむなしく、ひどく切ない。
現実は此処で、空想があれで、あの回線は、こことは違う。
自分を保つ術を探さなければ、簡単に狂ってしまうだろう。
「かいせ」
色が、俺の顔を見て不安そうに眉を寄せる。
「また何か見た?」
「あぁ」
短く答えてうなだれる。背中をさすられても、大して楽になれる気はしなくて、ただ苦しい。
「夢でもいい。話したくなったら、聞かせて。笑わないから」
ゆっくり、息をする。
「出掛けるか?」
道をすれ違った人から聞こえる何かが嫌で、なるべく音楽を聞いている。でも、今はプレーヤーが壊れているのだった。
いやだな。
「プレーヤー壊れてて、曲が聴けないし、電源すぐ切れるから出掛けたくねぇ……」
町は、ガヤガヤとうるさい。
「え、そうなの。じゃあ先に量販店でも行く?」
なぜだかバカにされた気がして。むっとする。色は穏やかな目をして俺に言う。
「怖いなら、ひっついてていい」
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