アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
宝石
-
「『宝石』取引の情報?」
「そ。話が早いね、当たり前か。そう、そこの『展示会』を俺たちは探している。どうやら貴重な石が紛れたようで……」
「どこからだ」
「きみたちを慕う、『上』からだよ」
なぜなのか俺は、いらいらしていて、そして、色はそんな俺に甘えたそうに、じっと見つめていた。
そういえば……
「この時期だった、か」
藍鶴色にとっての、いやな思い出。悪夢が始まった頃も。
嫌な、こと。悪夢。
「…………」
ふと、自分のことも、振りかえる。
――耳の奥で、まだ、空気がざわめいている気がする。
噂を聞いた。
昔の話。
扉をたてられない、人伝の話。
嫌な話。
確かめようのない、話。
「あのリストラの件さ」
「聞いた聞いた、
あのとき社長が出ていけば早かったのに
『すぐに助けたら面白くないから』見てたんだって」
「ひえー」
「それでもよくやったよなぁ」
「確かに」
急に帰り支度をすることになって下の階に向かっていたら、二人組の男がそんな話をしていた。
不運だった。
別に、聞いたわけじゃなく聞こえた。
なんでこいつら、
よりによって、今、居るんだろう。
聞きたくない。
わかりたくない。
意図しないで聞いてしまった。
ったくなんで、あんなもの聞こえるんだろう。
社長とやらのことはよく知らなかったけど、俺はつまり見捨てられていたのだろう。
その日は彼らに会わないように壁に隠れながら、反対側の入り口をいそいで潜って、そして帰宅するためだけに走った。
見つかっても、よかった。
なんの話?混ぜてくれる、と言えばいいかもしれない。
だが、もう、面倒だったんだ。
意味不明な事態も、多少の縁だった騒がしい人々も、今となれば興味がわかない。
どうでもいい。
食べて寝るのが一番。
どうにでもなればいい。ただ。許せないのは。
「試すって、なんだよ?
俺を試してた? みんなして、アレがどれだけ、消耗させるかもしらないくせに!」
だん、と近くの壁を蹴ると、コンクリートの欠片が、ばらばらと崩れてくる。
声に出そうがすっきりはしなかった。
「ふざけやがって……」
俺を試すために、すべて仕組まれたとでも言うんだろうか。
なんのために試したって言うんだろうか。
寿命が、3年くらい縮まった気がしていたときに、みんな、ただ実験してたんだ。
俺で、実験していたんだ。
「ああっ! なんなんだよ。意味わかんねぇ」
面白いかどうかで、俺は死にかけたんだ。
なんて最低な気分だ。
それでも、だからこそ、そこへの未練はなくなっていた。
藍鶴色に会うまでの話。俺が終わる予定だった、話。
死ぬ前に、社長とやらに問いただしにいくのもよかったのに、なんて、あとで思った。
どうせ、無理だけれど。
あぁ、なるほど人間は、他人を試すのだ、と。
当たり前のことなのに、生まれて初めて知ったような気持ちになった。
その次の日だった。
「面汚し!」
という言葉を向けられたのは。
俺は理解が追い付かず、ぼんやりしていた。
社長とやらについて何か告発してやろうとかいった気はなくて、その社員とやらも、告発してやろうという気もなかった。だから、なにかしたわけじゃない。はず。
全部、どうでもよかったのだ。
やはり俺を試していたのだろうか、裏切られたんだという切ない気持ちも含めて、何もかもが、どうでもよかった。
今思うと、彼らが適当に誤解を振り撒いただけかもしれない。なにひとつ、わかりはしなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
72 / 164