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心
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橋引と合流して外に出る。
空は真っ暗だった。
菊さんたちはまだやることがあるらしく、現場で分かれる。
日が暮れるので一旦帰宅とのことで、三人、用意された車に乗り込んだ。本当はこのまますぐ家に帰って寝たいのだけど、帰りにゆうこさんのところに寄らなくてはならないらしい。
結局夜中歩いてないか?
ゆうこさんの夕飯リクエストがなぜうちに来るのだろう。
何もかもわからない……。
「今、時代はぶりの照り焼きなのよ!
この前まで嫌いだったんだけど、我慢して食べ続けたら好きになっちゃってぇー!」
通話の録音が思わず再生される。
運転手にあやまりながら、携帯を閉じ、ちらっと、不機嫌そうに横で寝ている彼を見た。座ったままうつむいているが、聞こえてはいるらしい。
「あー……早く帰らないと、暴れるよなぁ、あの人」
色が微かに身じろぎして、一瞬だけ、声が聞こえる。
──俺あの人嫌い。
自分の意思を持ちまくりわがままの塊のようなゆうこさんは、お得意様の一人なのだが、わけあって度々絡みに来る。
彼女は好き嫌いがコロコロ変わる。
意思を会社が売り物にしている色には出来ないことだ。
知ってか知らずか得意げにコロコロ変わる好き嫌いの話をすることが多くて、無自覚に色を煽るので嫌われていた。一瞬の感情すら保てない人だっているというのに、商品にならない自分の気持ちを得意げに見せ付ける。
そんな酷いことを平然と行っている。
ゆうこさんも、会社も。
これで心まで盗もうなんて、考えたら、さっさと潰してやろうと思う。
「──どんな、気分なんだろうな」
わかっても、理解出来るわけじゃない。
心を作っても作っても、なくなってしまう気持ち。
罪を背負ったわけでもないのに、思考を制限され、ときどき廃人のようになっている。しゃべること、動くこと、全てが、自分のものと思うことが出来ないからだ。
本当は、何を見ていても、何をしていても、『心』と呼ぶべきだった。
それはお前が思ったことで、感じたことだ、と、誰かがいうべきだった。
誰かの未来とか、誰かの使命の前に、お前の意思そのものだと、いうべきだった。だけど、それは、俺一人の権限ではかなわないし、色も望まない。
思ったことも、感じたことも、怪物なのか。
わからない。
怪物と呼ばれるより、マシだという。
わからない……
信号が否定され続ける身体はどうなる?
対話を忘れ、壊れていく『奴』のように、ただ、廃人になっていくしかない。
『ゆうこさんを嫌いな自分』が、数少ない、色の心。
1月9日PM6:45
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