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行方不明者
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『彼女』が表から姿を消し、アパートにも戻らなくなったことを知ることになったのは、それから、暫く経ったある日、事務所に来た電話だった。
リュージさんからで、署内で行方不明として新たに扱われる人物として彼女があがってきたというものだった。
最期に会った俺が何か知らないかというのだ。
俺は知っていることを語った。
「ケントがストーキングの常習犯であった」ということ。「被害妄想にとりつかれており、それ絡みの問題を起こしていた」「男を恐喝し、事前に口裏を合わせていた」
それから、西崎ジン。
それと──『めぐみさん』
「めぐみさん?」
送話口からのリュージさんの声がやや尖る。
「めぐみさんが、なにか」
「行方不明者の一人だ。随分前の……なぜ、今頃になって……別の事件で名前を聞くなんて」
事情はわからないが、手慣れた様子からするに、これまでもずっと『めぐみさん』を都合よく造り上げ、他の事件を隠蔽することに成功してきたのだろう。きっと当の『めぐみさん』だって望まなかっただろうに。
かつて世間を騒がせた誘拐事件の被害者の一人。一人、というが、行方不明者は本当はまだまだ居る。同じように、それか違う手口でどこかに連れ去られ、あるいは殺害されている可能性が高いという。
『めぐみさん』
なぜか、彼女の名前ばかりが連日テレビに映る。他の被害者の情報は、なぜか、ほとんど話題にならない。もしかすると、他の被害者の情報も、誰かがめぐみさんにしてしまったのかもしれない。俺には知る由もないことだ。
「なにか相談しても、めぐみさんと言われる、とは言っていましたが……今の子が揶揄する話題では無いですよね」
「少なくとも、ケント、あるいは西崎ジンは、『めぐみさん』について何か知っている可能性は高いな」
『あの報道』に上がることとなる、ブログのコメント等も仕組まれたものだったとするなら、それが、本当に、あの国が絡むものだったとするなら──
めぐみさん、が一種の記号で、都合の良いモデルケースでしかないとするなら──
「合成音声──声帯模写っていうのかな?」
真実は……どこにある?
隠された、その奥。
「やっていることは恫喝や弱みを握ってるだけ……その提供元になっている人が居るだけ」
『それ』が可能な、すぐには見つからない技術があるとしたら、大統領でも大臣でも女王でもなんでも手に入るのではないか。秘密裏にそのための技術が一般人で試験されているとしても、滅多なことがない限り、露見することがないだろう。
『ジン』というアーティストが現れたのは、彼女がブログをやめた後。
まるで惜しむかのようだ。
『女性の声』で、ギターを持って歌うジンは一躍時の人になる。もしも、彼女になろうとしたのだとするなら、ケントのストーキングと同じように、ある種の執着心を感じてしまう。
ストーキングしなければ手には入らないような、弱味や恫喝材料を、惜し気もなく世間に曝し上げることを、まるで自らの個性のように唄う。
──拉致した人に、成りかわるみたいじゃないか?
りくさんが茶を啜り、一息ついた。
それから改めて言う。
「……界瀬さんの、お母様──彼女があの日、テレビで……占いをしましたね」
「──あぁ。プロデューサーだかスポンサーだかの意向としか思えない、偏った占いだったけれど」
2022年8月12日5時20分─9月23日AM6:48
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